【5】

先生同士①




「あれ、部室が開いてない……」



 夏休みも中盤。

 いつも通りボランティア部の部室に来たものの、今日は部屋の鍵が開いていなかった。



「柚木先生、まだ来ていないの?」



 珍しいこともあるものだ。そう思いながら、職員室に向かった。




 夏休みだからか、全然人のいない校内。

 静かな廊下を1人歩いていると、ある部屋の前に差し掛かった時、声が聞こえてきた。




 職員室に向かう途中に、教員宿直室がある。その声は、ここからだ。



「……?」



 日頃は気にならないその声。

 しかし静かだからか、宿直室からの声は大きく聞こえてきて思わず耳を澄ます。





「……今日も、行きませんか?」

「昨日も行っただろ……」

「私、河原先生になら毎日でも、抱かれたい」




「…………」



 目を見開き、思わず口元を手で覆う。



 中から聞こえてくる、艶っぽい女の人の声と、聞き馴染みのある低い声。



 女性の方は多分、溝本先生。男性の方は間違いなく河原先生だ。




「まだ朝だ……。盛るな」

「無理です。昨日のこと思い出すだけで、身体が言うことを聞きません……」

「馬鹿だな……」




 会話が聞こえなくなった宿直室からは、代わりに何かが重なり合う水音が聞こえ始めた。




「………………」




 この部屋で起きていること。


 それは、高校生の私でも……十分理解ができた。



「っ……」



 急に胸が締め付けられ、溢れるように涙が零れる始める。





 職員室に向かうのを止めて、私は急いでボランティア部の部室前に戻った。




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