2



 掃除道具を持って、正面玄関前に向かった。



 背丈を伸ばし始めている雑草たち。これらを全部抜いていく。




 スーツ姿で軍手をはめている柚木先生。固そうな草を、次々と引き抜いていた。




「平澤さん、制服のままだと汚れますよ」

「そういう先生こそ、スーツで草抜きはおかしいです」

「僕は良いのです。汚れるほどやりませんから」

「そんな宣言されましても……」



 草を抜きながらグラウンドに目を向ける。



 トラックを走っている陸上部。

 その中に、愛理と圭司もいた。



 2人は小学校の頃から地域のスポーツクラブで陸上をしていた。その後、中学でも高校でも陸上部に入り活動をしている。


 大会に出れば必ず入賞して帰る2人。

 実は2人とも、かなりの実力者だ。




「渡津さんと三崎くん。次も大会に出るんですよね」

「そうみたいです。今が頑張り時だと気合入れていました」

「……凄いですね。こんなに小さい学校の名前を県大会や地方大会で轟かすなんて」

「本当、凄いです」



 それに比べ“今の”私には、なんの取柄もない。


 勉強は嫌い。運動は苦手。

 秀でていることなんて何もなくて、まぁ……しいていうなら、草を根っこから抜くのが上手?


 そんな程度。




「そういえば平澤さん。この前、河原先生に告白していたじゃないですか?」

「え?」

「あれから気まずさとか無いですか?」

「………」



 柚木先生のその言葉に、勢いよく立ち上がった。一気に顔が熱くなる感覚がして、心臓も騒がしく音を立て始める。


 な、何で、柚木先生が知っているのか。



 口をパクパクさせ、呆然と柚木先生を見つめると、吹き出すように笑い始めた。



「何で知っているのか、と思ったのでしたら“甘い”とだけ言っておきましょうかね」

「……」

「校舎が1棟しかない小さな学校ですよ。どこで告白しても目につきます。廊下の窓が開いていたら尚更。声が良く届きますし」



 全然気が付かなかったし、完全に周りのことを考えていなかった。まさか、柚木先生に見られていたなんて……。



「どこで誰が見ているか分かりませんから。気をつけた方が良いです」

「そうですね……」



 溢れるように出てくる汗を制服の袖で拭って、草抜きを続行する。恥ずかしすぎて、穴に埋まりたい。それが率直な今の感想。



 だけど……。逆に柚木先生で良かったと諦めるしかない。もしこれが他の人だったら、何を言われることか。





「……」





 柚木先生は、少しだけ口角を上げて私の顔を眺めていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る