p.9

普段は空のカップに目の前で紅茶を注ぐ島崎だが、今回はどうやら違うらしい。


薄切りされた苺とピンクの液体が垂れたカップに、島崎が「失礼致します」と言って紅茶を注ぐ。


湯気が立つと同時に、甘酸っぱい香りがかなめの鼻をくすぐった。


最後に苺のへたと思わしき葉っぱを乗せて、かなめの目の前に置かれた。



紅茶好きのかなめも初めて見る種類のアレンジティーだったが、パーカーの小さな黒目は更に小さくなった。



「ストロベリーティーでございます」


「私の好物だ」


「それはそれは。よろしゅうございました」



どうせ調べたんでしょ、と言う言葉を飲み込んで、かなめは紅茶の香りを楽しむ姿が不似合いなパーカーに言った。


「それで、捜査状況は?」


「まぁ待て、そう急かすな。時差ぼけの脳を癒す時間をくれ」



ブルドッグでも嗜好を楽しむことがあるのだな、と思いつつ、かなめも一口啜った。


「……」



甘酸っぱい。


それだけだ。


どうやらピンクの液体はロゼワインのようだが、かなめの口には合わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る