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先程までの眼鏡&寝起き姿を一掃し、


赤い眼鏡はコンタクトに、


ブルーのネグリジェは紺の来客用ワンピースに、


寝室用スリッパは白のハイヒールに、


そしてボサボサだったうねり髪は艶のあるワンカールヘアに、


すっかり変身して見せたかなめは、島崎が先に案内していた客人のいる部屋に入った。



「これはこれは、本部長自ら足を運んでくださるとはね」


そう言いながら一礼して、暖炉の前のシングルソファに腰掛けた。



小さな丸机を挟んで、当主と同じような堂々たる態度で構える中肉中背でグレーのスーツ姿の男が、かなめとアメリカ中の事件を繋ぐ窓口だ。



毎度のことながら目が言ってしまう後頭部の残念な薄さと、ブルドッグのように垂れた口以外は、どこにでもいる普通の中年男だ。



だがこの男は、この国では優秀扱いされるFBI本部長の肩書を持つ。



「ミス・ジンノ。もうわかっているのだろう、私がここに来た理由は」


相変わらずの嗄れた濁声だ。



「今朝の新聞に出ていた身元不明の遺体ですか?」


「そうだ」


コンコン、とノックが鳴り、島崎が紅茶のセットを運んできた。


「失礼致します」


その作業は最早空気。


かなめは足を組んで今朝の新聞の一面記事を思い出した。

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