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寝言を言っては寝返りを打つ主人に、ベッド脇に立つ燕尾服の男は優しい眼差しを見せた。



やや癖のある黒髪に、左目の下の黒子が目立つのは、ここ仁野家の執事長である。



「本日は11時からパーカー様がいらっしゃいます。それまでに業務を終えて頂きませんと間に合いませんよ」


「…わかってる〜」


「では起きてください」


「あと5分待って」



そう言って布団に顔を埋めようとする主人に、執事でもやれやれとため息はつく。



仕方なくプライベートエリアであるレースの中へ。



外の光が、男の影を作り、その影は主人へゆっくりと近づいた。


そして、耳元にふぅーっと息を吹きかける。




「お目覚めのキスを、御所望ですか…?


 かなめお嬢様…」




「ッ…!!!」





パンッ



冷たい音が部屋に響いた。



それは主人が執事の頬を気持ちよく叩いた音ではなく、執事の手が主人の平手打ちを悠々と受け止めた音だった。

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