6月 新山さんの元カレ
第28話 6月 新山さんの元カレ(1)
学校の廊下はいつだって噂話に溢れている。
「1組の新山さんって美人だよね!」
「わかるー!大人っぽいよね~」
「絶対にモテるよね。この前も浅野先輩が告ったらしいよ」
「浅野先輩って3年のイケメン四天王じゃん!付き合ってるの!?」
「それが新山さん、あの浅野先輩をフったんだって!」
「ええ!?やっぱり新山さんはレベルが違うわ」
「だよね。新山さんに選ばれる男を見てみたいよ」
「あ、でもさ、いるよね」
「何が?」
「元カレ!一年の途中まで付き合ってた新山唯の元カレ!」
「え、誰?この学校!?」
「そう。えーっと、青山君!3組の青山ハル君!!」
「あーそれは似合うわ。美男美女だね」
「そうなの!何で別れたか不思議なんだよね。別れてからもお互いフリーみたいだし、この前なんて二人で駅前のカフェにいたらしくて」
「復縁したとか?」
そんな噂が校内で囁かれ始めたのは、体育祭の準備に明け暮れる6月のことだった。
◇ ◇ ◇
「一ノ瀬のツインテール超絶萌えるーー!!!!!」
炎天下のせいかおかしなテンションになっているよっしーと共に、わたしたち2年3組のメンバーも体育祭の朝を迎えていた。
「よっしー、緑に気持ち悪いこと言わないでくれる!」
「そう言う澤村のポニーテールもなかなか萌えるぜ?」
「全っ然嬉しくない」
「照れるな、澤村!」
開会式前、クラスごとに決められたスペースに教室から運んできた椅子を並べる。特に順番は決められていないから、だいたいがグループごとにまとまって座ることになり、わたしの隣にはハル君の椅子が置かれていた。
すっかり仲良くなった美紀とよっしーの会話を、悠子と一緒に笑いながら見ていると、美紀がわたしの腕を掴んでくっついてきた。
よっしーの言う通り、美紀のポニーテール姿は本当に可愛い。体育の時はいつもお団子にまとめているから、長い髪が左右に揺れ動く今日の髪型は、美紀の可愛さをさらに際立たせている。
「てかお前ら三人やっぱり目立つのな?」
悠子とわたしと美紀。三人で並んだわたしたちをまじまじと見たよっしーが、そんなことを言う。
確かに美少女美紀はもちろん、悠子も可愛いのだ。クールな性格とは反対に小柄で童顔な見た目はリスみたいで可愛い。美紀がモデルや女優系の美少女だとしたら、悠子はアイドルグループにいそうな美少女。しかも今日は体育祭なので、化粧や髪形もいつもより自由で、みんな華やかだ。
「悠子と美紀は可愛いから、どこに居ても目立っちゃうんだよ」
「いや、緑が一番かわいいから」
「そうね。性格も含めて一番かわいいのは緑よ」
なぜか両側から美少女二人に抱きつかれるかたちとなる。二人はいつも優しくわたしのことも褒めてくれるけど、なんだか申し訳ない。
「まあ三人とも可愛いってことだろ」
「よっしーいい奴!写真撮って!」
「澤村はな、俺の扱いがいつも雑なんだよ」
よっしーは文句を言いながらも美紀からスマホを受け取り、わたしたちの写真を撮ってくれる。その後ろから、スマホの画面を覗き込んだ玲君が「この写真売れるんじゃない」と恐ろしいことを言う。
「玲、真顔で冗談言うな」
「あはは、ごめんごめん、でもさ、三人とも本当に人気あるよね。最近よく紹介して欲しいって男子から頼まれるんだ」
「あ!俺も俺も!澤村と緑ちゃん紹介しろって煩いくらい」
そう言ったのは、体育委員の仕事から戻って来たばかりの村上君だ。
「え、その割に、美紀は誰も紹介されてないんだけど」
美紀が不満そうにそう言うけれど、わたしもそんな話初めて聞いた。
「あれだよ、一ノ瀬がサッカー部のあの野郎と別れた直後くらいから騒ぎ出す男子急増中って感じで、俺も部活の奴らに聞かれたし」
「え、わたし!?」
「おう。まあ、松本はこいつと付き合ってるから、だいたい澤村と一ノ瀬」
「ちなみに僕は一年の時、緑ちゃん狙ってる男子から付き合ってるのか聞かれたことあるよ。まあ結局そのあと緑ちゃんあのクソ彼氏と付き合っちゃったけど」
「そ、そうだったんだ」
玲君はニコニコしながら時々口が悪い。
それにしてもそんなもの好きな人がいるなんて。
「まあ、美紀の場合は入学してからずっと告白断り続けてるって有名だから、告白前に諦める男子も増えてるんじゃない?その点、緑はフリーになってばかりだからモテるのは当然かもね。私も男だったら美紀より緑を彼女にしたいし」
悠子の言葉に、美紀が「え、ひどい」と頬を膨らませる。
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