第14話 9月-③ ハル君と里中君(2)
結局HRの開始ギリギリに教室に着いたわたしたちを、ハル君は歓迎するどころか顔を向けることもなかった。そんなハル君の様子に「なんだ、あいつ」と里中君が不満を溢す。それを村上君が「まあまあ」と宥めながら、それぞれの席へ歩いていく。
わたしも自分の席、つまりハル君の後ろの席に歩いて行こうとすると、美紀と悠子が両脇から挟むように立ったから、驚いて二人を見る。
「二人ともどうしたの?」
「青山君って素直じゃないよね」
「まあ、こっちもこっちで問題だからお似合いじゃない?」
「……え、わたしの話?」
困惑するわたしに二人は呆れたような目を向けると、「明日も楽しみね」と綺麗な笑顔を作って離れていく。その姿を心底不思議に思いつつも、鳴り出したチャイムの音に急いで席へと向かった。
「ハル君、おはよう……」
自分の席につきながら、恐る恐るハル君に声をかけると「楽しかった?」と声だけが返ってきた。無視されなかったことにホッとしながら、小さな声で話を続ける。
「楽しかったよりも、恥ずかしかったかな」
「だろうね」
「ハル君は明日も来ないの?」
そっけないけれど返事をくれるハル君に、まだ心はざわざわしている。
「なんで一ノ瀬さんは俺に来て欲しいの?」
「えーっと……寂しいかなって」
「……誰が?」
「え?誰がって、みんなが?」
ふっと息を吐くようにハル君が笑う声が聞こえた。
それからその背中がゆっくりとこちらを振り返った。
いつの間にか担任が教室に現れて、黒板に向かって何かを書いている。
「一ノ瀬さんはやっぱりバカなの?」
そう聞いたハル君の顔は、どうしようもなく呆れているようにも見える。
だから急に恥ずかしさが込み上げた。
「そうなのかもしれない。あんな姿、ハル君から見たらバカみたいだよね」
罰ゲームで遊びとはいえ、高校生にもなって手を繋いで歩いている姿を全校生徒に披露しているのだから、きっと恥ずかしいよね。ハル君からしたら幼稚な遊びだ。
「明日は一緒に登校するよ」
「……え?」
思わぬ答えに顔を上げると、さっきまでの冷たい表情ではなく、いつもの優しいハル君がいた。
「明日は一ノ瀬さんと一緒に登校するから」
そう言ってハル君がまた前を向いてしまうから、わたしはその背中に「うん」と答えるのが精一杯だった。
わからない。ハル君が何を考えているのか。
どうして気持ちが変わったのか。
やっぱりハル君は難しい。
それでも明日はハル君もあの輪に居ることに、わたしの心は少しだけ軽くなった。
そして翌朝、ハル君の言っていた「一緒に登校する」は思いもよらぬ形で実行された。
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