9月-③ ハル君と里中君
第13話 9月-③ ハル君と里中君(1)
悠子の企みが発表された翌日の朝、いつもなら教室に着いてから顔を合わせるクラスメイトたちの姿を校門の前で見つけた。
すごく目立っている。
校門前を陣取る集団に気後れしそうになりながらも、わたしは急いで駆け寄った。
「おはよー」
「緑、おはよー」
今日も完璧に可愛い美紀が「遅いよー」と言いながら熱烈なハグをしてくれる。その腕の中で、みんなの顔を見るけれどハル君の姿がない。
「よし!主役3人揃ったし、教室行くか!」
そういった村上君に続いて「はーい!」とノリの良い返事をしたのはよっしーだ。
「よっしー、朝練は?」
「こんなに面白いことがあるんだから、終わってすぐに駆けつけたに決まってるだろ?」
「わたしは全然面白くないのに」
絶対に注目されることが確定している状況に、緊張と恥ずかしさで溜息をこぼす。
何より、ハル君がここに居ないことが心をザワザワさせる。
「ハルなら教室だよ」
「え?」
かけられた声に顔を上げたと同時に、左手が優しく握られた。
「玲君!」
「おはよう。前から思ってたけど、緑ちゃんって朝弱いよね」
「あの、えっと、そうなの」
慌てて返事をしながらも、あまりに自然に手を繋いでしまったことと、ハル君がすでに教室にいるという情報で、わたしの頭は混乱していく。
だけどそんなわたしの事などお構いなしに、今度は空いていた右手が乱暴に取られた。見なくてもわかる。この雑さは里中君だ。
「さっさと行くぞ」
不機嫌マックスの里中君に、「わかってるよ」と返す。
こっちだって里中君以上に嫌な顔をして歩きたい気分なんだから。
仕方なく歩き始めたわたしたち3人の後ろを、美紀と悠子と村上君、それからよっしーが続いて歩く。その不思議な光景に、周りの生徒たちが何事かと振り返り見る。時々かけられる顔見知りからの冷やかしの声に、里中君はいちいち「罰ゲームだよ!」と怒り、玲君は「写真撮るのは禁止ねー」なんてアイドルみたいな対応をする。その真ん中で羞恥心でいっぱいになりながら、他のことを考えて気を紛らわそうと校舎を見上げると、三階の窓、わたしたちの教室の窓から、よく知る黒髪が見えた。
あれは絶対にハル君だ。
机に伏せて寝ているのか顔は見えない。
「ハル、今日も超不機嫌だよ。待ち合わせすっぽかされちゃったし」
「そうなの?」
「うん。酷いよね」
そう言って優しく笑う玲君に「二人、仲良いね」と笑って返す。
「お前ら、毎朝男二人で待ち合わせてるの?」
「うん。中学からね」
「気持ち悪いな」
「そうかな?夏生君も一緒に待ち合わせる?」
「は?絶対嫌だし」
わたしの頭を超えて会話する二人の声を聞きながら、視線をまた教室の窓へ戻すと、さっきは寝ていたはずのハル君がこちらを見ていた。
だから自然と視線は重なって、不安が押し寄せた。
逸らせない視線は、いつもの優しいハル君のそれではなくて、なんだか少し怖くも感じた。何かが変わっていくような不安が、わたしをゆっくりと侵食していく。
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