不思議な洋館

(どれだけの時間が流れただろう……)


(随分と長い時間 眠っていた気がする……)


「あ、ねぇ、あれ…人が倒れてるよ」


(遠くで誰かの声が微かに鼓膜の奥の方で聞こえていた。

誰かが…何か言っているようだ)



ゾロゾロと駆け寄る数人の足音が横たわる小太りの舞子の前で立ち止まる。

舞子の顔や体からは汗が噴き出るほどに衣服はベッチョリと濡れていた。


「脱水症状か! すぐに水分補給だ」

「おぐちゃん、給水して!」

「オッケイ!!」

 

 そう言って、おぐちゃんは水やりのホースで放水する。


 (恵みの雨や…。私は朦朧もうろうとする意識の中で涼風を浴びたような

冷感を体に感していた)


 アスファルトに染み着くほどの水流が放散された。


 (冷たくてめっちゃ気持ちがいい……)



「よし、誰がこの女を運ぶかジャンケンで決めようぜ」


(え、運ぶって?)


「あ、じゃ僕が運ぶよ」

「いや、凪助はダメだ。力がねー。ここは俺が運ぶ」

「なんでだよ、ピーヤン。ピーヤンこそ そんなに腕力ないでしょ」

「俺は毎朝、トレーニングをしてるから80キロ程度のもんなら大丈夫だ」

と、ピーヤンが舞子の体を持ち上げようとするがその体はビクともしない。

「え、マジか…データによると、宮間居舞子は80キロとなっているが…」

「また、太ったんじゃない? データによると一日4食たべてるらしいから」


(おっしゃる通りでございます。朝はトンカツに揚げパン10個、牛乳2パック、

大椀に味噌汁3杯。昼はコロッケ(大)5個と酢豚。ご飯大盛3杯、大皿に盛った

唐揚げが2皿。でも、唐揚げはまるちゃんと食べてたし…まあ、全部は食べれん

かったけど…。若干、食べてるね…。まあ、ちょっと、太ってるかもね……笑)



「ピーヤン、無理せんでも…ここは一番 力があるキューちゃんに任せとけば

いいじゃん。それに、早くしないと…プリンスが…」

「……わかった、、、。キューちゃん頼める?」


渋々、ピーヤンはキューちゃんにバトンタッチをする。


「うん、いいよ。それじゃ、いくよ」


ひょい…っと…⤴ キューちゃんは軽々と舞子を抱っこする。


「おお…さすがキューちゃん」

「エッヘン!!」

「ねぇ、急いだ方がいいんじゃない? きっと、プリンスが腕組んで仁王立ち

してるよ」

「……だな」

「急ごうぜ」


ドタバタドタバタ………ドタ…タッタッタッ……


数人の足音はその場を離れ洋館やかたの入口へと向かっている。




(初めての感覚だわ…。もしかして、これがお姫様だっこ…というものですか?)



(しかも80キロ以上もある私の体を軽々 あっさりと持ち上げるなんて……

目を開けて、誰が私をお姫様抱っこしているのか…見たい……。

ものすごーくその顔を拝見してみたいわ……。

もしかしたら、私の王子様かもしれないもの…。だけど…見てみたいけど……

でも…目を開けるのが怖い…)


舞子が空想の世界の王子様と甘い夢想にどっぷりと浸っている時、

彼らの足音は洋館やかた玄関の前で立ち止まる。


「キィィ――――……」


不思議な外壁でできた洋館やかたの扉がゆっくりと開いていくーーー。


「入居者1名、到着いたしました 」


凪助を筆頭にピーヤン、キューちゃん、おぐちゃんが敬礼する。


その目先にはプリンスを中心にキャロット、マドリ―、玉ちゃん、センちゃん、

ギネスが立っている。

のちに紹介するが、皆、味がある濃いキャラクター達ばかりです】


「なんだ、そのド汚いメスブタは」


ずっしりと重く圧し掛かる様に上から目線で言い放つ俺様系キャラの

男爵王子プリンスの言葉に思わず動揺したキューちゃんの手が離れ、舞子の体は

広い玄関を埋め尽くすようにクロス貼りにされた床に背中からズトンと

落とされた。

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