第86話

「何でもない。続けて?」




成宮君を見つめて言い返した。




この状況の恥ずかしさに段々と顔が熱くなってくる。




「……うん」




成宮君はそう短く返事をすると、ネクタイに指をかけた。




『山崎に覆い被さってネクタイに指かけて緩めてな……──』




記憶の片隅にあった名倉の言葉をゆらゆらと思い出す。




緊張で呼吸さえも乱れそうになる中、名倉の声が頭の中に反響する。





『山崎の手を頭の上で拘束しながら──』




緊張して固まる私の手を成宮君は片手でそっと拘束した。




その行為にドキドキとはまた違う感情が芽生えてくる。




ゾクゾクするような



恥ずかしいような




経験したことがない甘い感情に自然と目が潤んできた。

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