第84話

「ネクタイをシュっとしていただけませんか?」




そう言ったものの、恥ずかしくなって成宮君から目を反らした。




目の前に立つ成宮君の目が一瞬だけ見開いたから。




さっき、勉強していたよりも全然距離が近くに思えて、息をするのでさえ緊張する。




チラっと再び成宮君に視線を送ってみたら、成宮君は黙ったまま、私をじっと見つめていて……。




澄んだ瞳は真っ直ぐで、余計に緊張する。




ドキドキと胸がときめいて、苦しい。




成宮君は私を見つめたまま、静かに口を開いた。




「いいの……?」




「……え?」




急に言われた確認の言葉に目を見開く。




「……ネクタイって前に名倉くんと話してたやつだよね……?」




スッと髪の毛に指を通されて、そう囁かれる。




「……うん」




「言ってた通りに……して欲しいの?」





成宮君は私を抱き寄せて、ふっと笑った。

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