第54話

「あの、どうしてあの倉庫に?」




使われていない倉庫なのに、わざわざ来た理由はなに?




まさか……。




タバコを吸いに来たとか……!?




「………ふっ」





眼鏡君は私の質問には答えずに、小さく笑った。





「え?あの……」




「気をつけて帰れよ」




困惑する私を置いて、眼鏡君は手を振って歩いて行く。




え?全面スルー?





「あの……!お名前は?」




歩いていく、眼鏡君に向かって大声で叫んだ。




もし、知っている人なら名前を聞けば、思い出すかも……。




「……名前?」




眼鏡君は叫んだ私の声を聞いて再びこちらに振り返った。




「そう。名前を教えて下さい」




「…………斗真」




「とうま?」




記憶を最大限に引き出す。




斗真という名前に聞き覚えなんてない。




「じゃあ、気をつけて」




斗真は、私に片手をあげてそう言ったあと、呆気なく正門を抜けて去って行ってしまった──。

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