第74話

彼の手はアタシの顔を軽く持ち上げる。


それでアタシは嫌でも川嶋先生を見なければならなかった。


「なかった事にしたいの?あの日の事を。」


「え……、」


「深野さんにとって俺はどうでもいいヒトなのかな。」


……どうしてあなたがそんな事言うの?


「先生……、」


「俺を騙して良い気分だった?」


川嶋先生は薄く笑いながらアタシの頬から手を離す。

それでアタシは少し後ずさった。


騙したんじゃない。

だけど嘘をついたから結局はそうなのかもしれない。

だけど……、


「だけど、騙されたとは思えない事も事実あるんだよね……。」

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