第10話

「……傘ないの?」


「は?」


アタシの口から間抜けな声が出てしまう。


確かに傘はないんだけど……。


川嶋先生はアタシの事を知っていて声を掛けているのかさっぱり理解が出来なかった。

彼はベンチに置いてあるカラになった缶ビールに視線を向ける。


「……身体冷やすんじゃないの?外でそんなに呑んだら。傘貸すから。」


そう言ってアタシにさっきまで使っていた傘を渡してくる。



「え……えと、大丈夫です。」


「なにが?」


「もう帰りますから。」


「だけど傘ないんでしょ?」



これは非常に困った。



川嶋先生はきっとアタシの事は知らない。



見ず知らずの人間にも気遣いができる、デキたヒトだ。


だけど今は、お願いだからアタシを無視して欲しいんだけど。

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