第9話 お泊まり

 今年も寒い季節がやってきた。


 たしか去年の今頃は、斗和ちゃんのジャンパーが小さくなったってLINEが彼から来て、服のおすすめサイト教えてたっけ?  

そして、彼がそのサイトを使ってくれて、柚希とお揃いのジャンパーを買ってた。


 どんな些細なことでも、彼と関われるのが嬉しかったな。今もだけど――。


 ちなみに今は、一緒にそのサイトを見ながら選んだり、お店に買いに行ったりもしている。

 あの時よりも進展している。


 今年もそのお揃いのジャンパーをふたりは着ていた。


 進展といえば、お付き合いを始めてから、彼の家で過ごすことが多くなっていった。


「ねぇ、パパ! 今日、柚希ちゃんと一緒に寝たい!」

 

 いつものように、ご飯を彼の家で食べていた時、斗和ちゃんが言った。


 私は彼と目を合わせる。

 彼の家に泊まったことは、まだない。


「斗和、柚希ちゃんたち、もうすぐ帰らないといけないんだよ! また今度きちんとお約束してからにしようね」

「私も斗和ちゃんと一緒に寝たいな」

 柚希も言い出した。

「柚希、もう少ししたら帰ろうね?」

「私、帰らないよ!」

「じゃあ、ママひとりで帰るの?」

「うん」

 帰ろうって柚希に言ってるのに、私はその言葉に反比例して、泊まりたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。


「生田さん、明日は土曜日ですが、お仕事ですか?」

「いえ、休みです」

「私もお休みです」

 ここで私は言葉を止める。

「……じゃあ、江川さんがご迷惑でなければ、泊まっていきますか?」

 素直に泊まりたいって言えばいいのに、明らかに今、この言葉、察して?みたいなところで私は言葉を止め、彼に気をつかわせてしまった。申しわけない気持ちになった。

 

 ――彼の家でお泊まり。心がそわそわする。



「柚希ちゃんも斗和と一緒にお風呂入れちゃって、大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「もうお風呂沸くんで、三人で入っちゃいますね!」

「じゃあ、私、その後のことするので、子供たちが上がった後は、ゆっくりお風呂に入ってください」

「ありがとうございます! じゃあ、子供たち上がる時、お風呂から呼び出し音ならしますね! 僕たちの後は、江川さんもゆっくりお風呂入ってくださいね!」

「ありがとうございます!」


 柚希が着るパジャマ、下着は斗和ちゃんのを借り、歯ブラシも新しいのを準備してくれた。

 急な泊まりになったけれど、同じ歳の子供がいるから色々一緒に使えて良かった! とても助かる。


 ピロリロリーン♪


 綺麗だなと改めて家の中を見渡したり、スマホでSNSチェックをしていたら、呼び出し音がなった。


 斗和ちゃんはひとりでだいたい体を拭けるみたいだったから、柚希の体を拭いた。斗和ちゃんが保湿クリームのことを教えてくれて、ふたりに塗る。後はそれぞれ着替えてもらって、私はふたりの髪の毛をとかしてあげた。そして、歯磨きの仕上げ磨きをふたりにして、リビングへ。


 ――私、ふたりのママみたい。


 彼は結構早く上がってきて、入れ違いに私は浴室へ。


 こんなゆっくりひとりでお風呂入ったの、いつぶりだろう。のんびり湯船に浸かる。お湯の気持ちよさでじんわりしながら、今日を振り返り、心もじんわり。

 

 彼から長袖Tシャツとスウェットパンツを借りた。普段彼が着ているものを身に纏っている。それだけでドキドキする。ドライヤーで髪を乾かしリビングに行くと、明かりが消えていた。


 一階にある寝室から彼が顔を出してきて、手招きをしてきたから彼の元へ。


「寝ちゃってる」


 並べてある三組の布団。真ん中で子供たちは手を繋ぎながら眠っていた。

 可愛すぎて、私はこっそり写真を撮った。


 枕元には絵本。

 彼が子供たちに読んであげていたのかな?


「はしゃぎすぎて、疲れちゃったんでしょうね」

「そうですね」

 ふたりで同時に壁掛け時計を見ると二十時半。

「柚希、今日寝るの早い!」

「斗和もですよ。最近寝る間際に元気になりだして……」

「うちもですよ! 覚醒してなかなか寝てくれません」

 ふたりで目を合わせ微笑んだ。




「ちょっと、お話しませんか?」

「はい」


 ふたりでリビングのローテーブルの前にあるソファーに並んで座る。


「結局、泊まってもらうことになって、すみません」

 斗和ちゃんが「泊まって」と言い出したこと、彼は気にしているのかな?

「いえいえ、ゆっくりお風呂も入れたし、美味しいご飯もいただいて、こうして一緒にいられますし」

「僕たちがふたりでいられる時間、本当に貴重ですよね」

「ですね、それにしても、この泊まるきっかけもそうですけれど、いつも私たちが近づくきっかけをくれるのは子供たちな気がします」

「たしかに……というか、子供たちがいなければ僕たち、出会ってなかったですよね」


 確かにそうだ。最初の出会いは保育園。

 彼と私は同時に子供たちが眠っている寝室の方向を見た。見ながら私は言う。


「なんだか、あの子たち、姉妹みたいですね」

「姉妹、いずれはそうなるんですね!」

 いずれは……その言い方はまるで、未来には私たちが家族になるような言い方。彼は結婚を意識してくれているのだろうか。

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