デート(ご飯)

館内を十分に見た後、水族館付属のレストランで食事を取る。

「うわぁ。見てください。可愛い」

亀の形をしたメロンパン。カレイのカレーパン。カニやラッコのパンまであった。

「可愛いね。子供みたいにはしゃぐ唯が」

「馬鹿にしてますか」

「してないしてない」

運良く窓側の席が空いていたのでそこに座る。景色を見ると海が見えた。

「久しぶりに食べるけど美味しいね」

翔が食べているのはホットドック。御曹司なのでファーストフードには抵抗があるかと心配したが問題なさそうだ。

「そういえばご相談がありまして」

「何?改まって」

「あの、もしよければ翔の家のキッチンを使わせてもらってもいいですか。自炊しないと食費が高くて」

「ああ、もちろんいいよ。唯は料理得意なの」

「得意とまで言えるか分からないですが料理を作るのは好きですよ」

私の言葉を聞いて翔は思案するように腕を組む。

「もしよかったら俺の分も作ってくれない。代わりに食費は出すからさ」

「え、お口に会うか分からないですよ」

「唯が作る料理食べてみたくて」

お願いするように手を合わせて笑う。片目を閉じてウィンクまでしてくれる。この人の顔の良さはむしろ凶器だ。こんな顔されて断れる人なんて存在しない。

「分かりました。苦手な料理はありますか」

「ないよ。全く」

作る側としてありがたい答え。

「得意料理とかあるの」

「オムライスですね。学生の時、オムライス専門店でバイトしてたので」

高校の時に働き、受験をきっかけに一度辞めた。大学生になってから店長にまた働かせて貰えないかと頼んだら了承してくれたので5年以上は働いたことになる。

「早速、明日作ってよ」

「分かりました」

「やった」と小さく呟いて喜ぶように拳を握る。私のことを子供扱いする翔も十分幼い一面を残している。

「あ、でも冷蔵庫にほとんど食材ないや」

どうやら普段は外食や出前、コンビニ弁当で済ますらしい。安価なカップラーメンやインスタント食品を食べることも多々あるみたいだ。庶民の私とも味覚が変わらなそうで安心した。

「明日、午前中に買い物にいきますよ」

「なら車は出すよ」

「え」

食費まで出してもらえるなら買い物は私の仕事ではないのだろうか。

「当然でしょ。荷物が重くなるかもしれないし、スーパーだって歩けば15分はかかるよ」

十分歩ける距離だ。けれど翔は強引な一面も持ち合わせていてこういう時は譲らないことも薄々学んだ。

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