デート

今日は翔と一緒に出掛ける。デートすると言えるかもしれない。部屋にこもり洋服を真剣に選ぶ。

結局白のワンピースを着ることにした。ナチュラルメイクを施し長い髪は片側だけ耳が出るようにセットする。そして花をモチーフにした銀色のイヤリングをつけた。

部屋を出ると翔は既に準備ができていてリビングでコーヒーを飲んでいた。

そんな些細な動作ですら優雅でドラマや映画のワンシーンのように見えてしまう。水滴が唇に付いたらしく指で拭う。やけに色っぽい動作だった。

「お待たせしました」

「いーえ、まだ10分前だしね」

それから黙って私を見つめると微かに微笑んだ。

「唯の私服姿ってあんまり見たことないけど可愛いね」

「ありがとうございます」

あまり褒めら慣れていないので俯いてしまう。チラリと翔を見れば相変わらずのカッコ良さだ。

洋服はジャケットと長ズボン。どちらも黒色だ。中のインナーすら黒。翔の男らしさを強調するような私服だった。

「翔は黒が似合いますね」

「そう?ありがとう」

それから私達は一旦マンションの駐車場に向かう。車は黒のリーフ。黒が似合うし好きな人なんだろう。

翔の運転はスムーズで安定している。その上リーフは静寂性に優れている。そのため睡魔が襲ってきて何度か瞬きをした。

「昨日、遅かったしな」

眠気と闘っているのがバレたのだろう。隣でくすくすと笑われた。

「すいません」

「謝ることないって。あんな大型案件任されるなんて凄いことだし」

「はい。不安もあるけど認められたようで嬉しいですね」

昨日は遅くまで会社に残り計画書を作成していた。そのため帰った時には日付が変わっていた。

「少しでも分からないことがあればいつでも聞けよ。絶対力になるから」

頼りになり面倒見も良い上司からの発言だ。だから単なる社交辞令ではないことも伝わる。おかげで今も胸の片隅で燻っていた不安はいくらか和らいだ。

「ありがとうございます」

「いーえ。疲れてるだろうから寝てていいよ。着いたら起こすから」

「え、でも」

仮にも上司が運転している横で寝るなんて失礼すぎないだろうか。

「俺らは契約上とはいえ恋人だろう。彼氏は彼女を甘やかすものなの」

「そんなの初めて聞きましたよ」

「おやすみ」

強引に会話を終わらせられた。せっかくなのでお言葉に甘えて目を閉じる。一瞬で眠りにつくことができた。

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