同居スタート

「今日からよろしくね、唯」

今だに慣れない名前呼びに心臓が微かに跳ねた。親に会う時に名字で呼んだりしないように普段から名前呼びをするようになったのだ。

ただし会社ではお互いに名字で呼ぶ。

「よろしくお願いします。翔」

今日から翔の家で同居スタートだ。

彼が住んでいるのはメゾネットタイプのマンション、最上階の一室。間取りは2LDK。

翔の部屋は2階だ。1階にはリビング、テラス、お風呂にトイレ、それと私に貸してくれる部屋がある。

元々誰かが泊まりにきた時のために客用のベットが用意されていた。部屋の中には机、椅子、テレビが置かれている。

「生活する上で必要な物が出てきたらその都度買いにいこう」

「分かりました」

取り敢えずは大丈夫だろうなと思いながらも答える。

出かける予定がないからだろうか。仕事の時は一部バックにしている前髪を全て下ろしていた。2年以上一緒に働いているにも関わらず見たことのない姿にドキッとする。

「少し疑問に感じたのですがいいですか」

「なんだ」

「恋人のフリするだけなら同居までする必要ありましたか」

「やっぱり一緒に住むことには抵抗あるか」

不安そうな顔をされ慌てて否定する。

「いえ、むしろ助かってます。家賃払わないだけで毎月5万浮きますし、お陰で学費払えそうです」

「そっか」

今度は安堵したように笑う。こんなに無邪気に笑う人だっただろうか。カッコ良い顔から反転して可愛く見える。

「ただ一緒に住む上で黒部さんにご迷惑かけないか心配だったので」

「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。一緒に住んで欲しい理由は単純。そっちの方が説得力あるからだ」

「説得力」

私が首を傾げると詳しく説明してくれた。

「両親には結婚前提で付き合っていて今も同棲してると話す。ただ少しでも変な所があれば母親は見破ってくる」

「鋭い人なんですね」

翔にも似たような所がある。さすが母親、と変な所で感心する。

「ああ、前に親に会う日だけレンタル彼女を頼んだら休みの日は何をしてるのか、デートしてるのか、写真はないのか聞かれて焦ったからな」

説明を聞いて自然と背筋が伸びた。私は黒部さんのお陰で学費を払えるようになった。だからこそ今度は少しでも力になりたい。迷惑をかけたくない。

「なら翔が良かったら今度の休み一緒に出かけません」

「いいのか」

「はい。それで2人で写真も撮りましょう」

「助かるよ」

黒部さんの役に立ちたくてした提案だった。けれど私は今度の休みをことを考え、自然と口角があがった。

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