ご飯②

「けれどやっぱり平手が授業料を払う理由にはならないんじゃないか。かなり無理してるだろ」

「無理なんてしてないですよ」

嘘だった。慢性的な寝不足。それに伴う頭痛。

もはや不調を抱えるのが当たり前になり、健康な状態がどんなものか思い出せない。

それでも弱音を吐きたくなかった。一度でも泣き言を漏らせばもう頑張れない気がした。

「してるだろう。それに妹さん平手に甘えすぎじゃないか」

「それは違います」

黒部さんが純粋に私のことを心配してくれてるのは分かってる。それでも大好きな家族のことを否定される訳にはいかない。

「違う」

首を傾げながら問われる。

「妹、美愛みあは実家での全ての家事をこなします。それにバイトをして生活費を稼いでます」

「立派だな。ついでに奨学金を借りる選択肢を選べばもっと偉いと思うけど」

それは美愛からも言われた。優しいあの子は私に負担をかけることに心を痛めている。

「私は大学の授業料を親に払ってもらいました。学生時代、家事も手伝わなかったし生活費も入れなかった」

両親に愛されていたと思う。甘やかされていたとも。

「私だけがぬくぬくと学生生活を謳歌して美愛は苦労してるんです」

声が震える。気を抜くと涙が出そうになる。あの子はテスト前やレポート提出期限前すらバイトを休めない。時には睡眠時間を削り勉強を頑張っている。遊ぶための時間なんてほとんどない。

「その上奨学金という名の借金を背負い社会人になったら返していけなんて言えないですよ」

しかも美愛は将来、刑事事件専門の弁護士を目指している。無事に弁護士になれたとしても刑事事件しか扱わないと決して給料は高くない。

「理由は分かった。けれどキャバクラは辞めろ。もし続けるなら会社に報告する」

「分かりました」

会社のルールを破ったのは私だ。それにキャバクラをやめさえすれば会社に報告はしないでくれる。随分な温情だ。

「ごめんな」

だからこそ何故謝られたのか、黒部さんがどうしてそんなにも辛そうな顔をするのか理解できなかった。

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