ご飯
「黒部さんっていつもこんなお店でご飯食べてるんですか」
来たのは個室の居酒屋店。高層ビルの7階にあるお店だ。部屋1つ1つに大きな窓が設置されていて食事をしながら夜景を楽しめる。
「まあね。よければ窓側どうぞ」
自然と下座に向かう私を止めるように声をかけられた。部屋に入ってすぐに夜景を直視していたことを気づかれたのだろう。
「ありがとうございます」
席に座り渡されたメニューを見て驚く。
「カプレーゼにカルパッチョ。パエリアに生ハムの盛り合わせ。ここ居酒屋ですよね」
「居酒屋だよ。今平手が挙げたメニュー全部おすすめ。頼んでいい」
「どうぞ」
更に黒部さんは追加でリゾットとローストビーフを注文した。
飲み物は黒部さんがジントニック。私がオレンジジュース。
「平手お酒飲めるよね。ここカクテルもワインも美味しいよ」
「アルコール飲んだら寝ちゃいそうで」
苦笑いされた。
「遅くならないうちに帰ろっか」
「お願いします」
軽く頭を下げる。運ばれた料理はどれも美味しかった。ここ最近節約を意識して質素の食事を心掛けていたから尚更美味しく感じる。噛み締めるようにゆっくりと味わう。
「それでなんでキャバクラで働いてるのか聞いてもいい。うちの会社が副業禁止なのは知ってるだろう」
「お金が欲しかった。理由なんてそれだけですよ」
黒部さんは綺麗に整った眉をしかめた。
「うちの会社は大手だ。しかも平手は成績も良い。給料は十分貰えているだろう」
「足りないんです」
「なんでそんなにお金が必要なんだ」
眉間のシワをさらに深め腕を組みながら訊かれる。
「妹の大学の授業料を払うためです」
「え」
予想外の回答だったのだろうか。呆けたような顔をされた。仕事場では決して見れない無防備な顔に驚く。
「大学の授業料って普通親が払うもじゃない。もしくは奨学金を借りるとか」
「父が4ヶ月前に他界しました。なのであまり余裕がないんです」
父親がもうこの世にいない。その事実を口にする時僅かに胸が傷んだ。
「それは、ご愁傷様です」
「いえ」
気を遣わせてしまうのが申し訳なくて笑顔を作る。すると更に悲しげな顔をされた。
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