残業

「平手の資料は本当に丁寧だよな。見易いし常にクライアントの立場になって考えてるのが伝わる」

既にできてる資料を見ながら突然褒められた。

「ありがとうございます」

お礼を言いながらも資料を作っていく。

「山本さんも褒めてたよ。だからこそ副業していることが会社に見つかって懲戒処分になったりしたら悲しいって」

怒られるでもなくただ心配されてる言葉をかけられると胸が痛む。

「すいません」と小さく呟いた。

「謝ってほしい訳ではないよ。平手がクライアントから頼りにされてるって話だし」

屈託なく笑う。それからは黙って資料を作り続けた。カタカタとキーボードを叩く音だけが響いた。不思議と気まずさはなく穏やかな時間だった。

「終わったー」

両手を伸ばしてリラックスした調子で業務の終了を喜ぶ。

「ありがとうございます。本当に仕事早いですね」

同じ時間で私の倍は資料を作り上げていた。

「でしょ」

あまりに無邪気に笑うから優秀な上司に嫉妬する気も起きない。

「さてご飯でも食べに行こうか」

副業の話の続きをしようということだろう。私に拒否権などあるわけなかった。

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