第14話
リィラが果物を採りに行こうといつもの果樹地帯に向かうと、木のそばで少女が倒れているのを見つけた。
またか、と思いつつ、その少女を見る。リィラの半分くらいの年齢だろうか。彼女はひどく汚れていて、身長のわりに腕や足が細いことに気づいた。
「……」
迷い込んだ、とか、家出をした、というだけではない何かの事情のようなものを感じて、リィラは少女に近付く。
息はある。おそらくだが、この木の果物を採るために上ろうとして落ちてしまったのだろうと予想する。
それなら体のどこかを痛めているかもしれない。頭を打っているなら最悪だ。頭だとしても……たんこぶが出来ているならば……。
そう思い、リィラは少女の頭に手を伸ばす。
その瞬間、少女がパッと目を覚ました。
「あっ……」
「え……」
思わず目が合う。
「な、何ですか。わたし、何も……痛っ」
あわてた少女が体を起こし、リィラと距離をとろうとすると、突然眉をしかめ、右足をおさえた。
「……痛いの?」
「痛くないです! 全然!」
「本当?」
「本当です!」
「触ってもいい?」
「やめてください!」
「痛いのね?」
「痛くないです!」
「そう」
リィラは微笑んで、立ち上がる。
「じゃあ私は果物を採るわね」
「えっ」
「それじゃあ」
本来の目的である果物を採りにリィラは少女の横を通り過ぎ、果樹地帯の中に入っていく。
本来であれば食い合うような果物同士も、ここではなぜか隣同士で成っているし、何なら味も人の手を加えたように甘い。
リィラは赤い実とオレンジの実、黄色の実をいくつか採ってかごに入れ、もと来た道を引き返す。
少女はうめきながらまだそこにいた。
「はい、どうぞ」
「わあっ!」
少女の背後から赤い実を渡すと、少女はとても驚いて飛び上がった。また右足が痛むのか「うぅ……」と呻く。
「あら、ごめんなさい」
「いえ……。というか、いいんですか?」
「何が?」
「これ……」
「あ、私も食べるから安心して大丈夫よ」
リィラは一度少女に渡した赤い実をもう一度自分の手に戻し、かごにあったナイフで半分に切る。
「どっちがいい?」
「え、じゃあ、こ、こっちで……」
「はい、どうぞ」
指差されたほうを少女に手渡す。少女は赤い実とリィラを交互に見ていた。
リィラが赤い実を一口食べると少女も真似して一口食べた。
「美味しいです」
「よかった。……お隣、座ってもいい?」
「はい」
少女の隣に座って赤い実をいっしょに食べる。少女は右足を不自然に伸ばしたままだった。
「やっぱり、右足、怪我をしているんでしょう」
「……はい」
「木から落ちたの?」
「おなかがすいていて……」
「頭は打ってない?」
「え? あ、はい」
「それならまだよかったわ」
「あ、確かに。頭だったらもっと大変でしたね」
少女も「よかった~~」と胸をなでおろすように言った。
「でも、足が治らないと歩けません」
「それもそうね」
「あ、あの……あなたも、やっぱり迷子ですか?」
「そうね……あなたより少し長く、迷子をやらせてもらっているかもね」
「それなら、少し心強いです」
少女は少しだけ困ったように笑った。眉を下げて。
「少しだけ……足が良くなるまで、そばにいてくれませんか?」
そんなことを言われたのは初めてだった。この森に来てから、とかじゃない。生まれて初めて。誰かにそばにいることを願われた。
あんまりにも驚いたのでリィラは赤い実を取り落としそうになった。
「……ええ。もちろん」
その日からリィラと少女は一緒に生活をするようになった。
ただ、リィラは家に案内はしない。魔術を使わない。
極力今まで見てきた迷い人のように行動をして、少女に「自分と同じである」と印象付けた。
そうすれば少女は自分から離れて行かないと、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます