第11話

───ひどく、暗い、と感じた。

リィラが目覚めたのは苔むした切り株の上で、頭上では木が犇めいていた。

暗いが夜だとは思わなかったのは余すところなく犇めいている木々のあいだからわずかだが日が差していたからだ。

それでも足元がおぼつかない程度には暗い。

「森、かしら」

走っていた途中からの記憶が朧気だ。どうやって入ったのかも、ここがどれくらい奥深くにある場所なのかもはっきりしない。

ただわかるのは周りには生き物、特に人間の気配は全くしないということ。

そのことにリィラは深く安堵をした。

「…………」

普通なら森の外へ出ようと必死になるだろう。だがリィラはここで暮らしていけるなら構わないと思うほどには、この森に安心感を得ていた。

それは不自然なほどに。

不自然だとは思いつつ、それに過度に抗うようなこともしなかった。

「魔術の本はある。よかった。落としたりしてなくて」

肩を撫で下ろし、呼吸を整える。それこら、もう一度あたりを見回し、歩を進めた。


当然ながら道は舗装されていない。というか、道らしきものもないため、もしかしたらこの場所を道として使っているのはリィラくらいかもしれなかった。

少し歩くと少し開けた場所に出た。

大きな木漏れ日が苔の生えた地面を照らす。

その先に作りかけと見られるログハウスの残骸があった。

「壊れた」のではなく「作りかけ」だと思ったのは作り途中であったと思われる材料が途中まで組み上がったログハウスの周りに転がっていたからだった。

この近くに住む木こりか誰かの一時的な滞在場所予定だったりしたのだろうか。

しばらくここで暮らすと決めた以上、滞在場所が必要だ。

リィラは苔が生えたりしている作りかけのログハウスの苔を一掃し、作りかけから木々を組み直して、家を作り始めた。


出来上がった家はリィラがかつて住んでいた離れより少し広いくらいの大きさになった。家具などを何も置いていないため、広々とした一室に見える。

「思ったより早く完成したわ」

リィラがひとりで出来たのも魔術を使ったからだ。

木を運んだり、継いだり。そういう作業は魔術で軽々しく出来てしまう。

「あとはテーブルとか、椅子とか、ベッドとかを、作って……あとごはんも、考えなくちゃね」

完成した自分一人だけの城の中、何もない部屋でリィラはつぶやいた。



約一月ほどで生活の基盤は完成した。

食べ物も本格的に困ったのははじめの3日程度で(と言ってもその間は大変だったが)、基本的には森に何でもあった。

木の実や果物はもちろん、魚が泳ぐ小さな川や、仕留めやすい動物がいる場所なんかもあった。暗いにも関わらず絶えず穀物が実る場所を見つけたときはあまりにも都合が良すぎて幻覚を見ているのだと思った。

それを魔術で食べられるようにする方法も魔術の本には記載があり、それに習って食事を作った。

森にあったのは食料だけではなく、例えば本や服などの布類が良く落ちていた。

まるで個人が持つような、ありふれてはいるが個性のある「持ち物」だ。

そういえばこの森に入るとき「危ないから入るな」と言われたことを思い出した。意識が朦朧としていたときの朧気な記憶だ。

それは行方不明者や失踪者を出すからだと。

つまり、この「持ち物」たちは彼らのものだった、のかもしれない。本当のところはわからないが。

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