第272話

力を振り絞っているような手が、私の頬に置かれる。



「…っ……言え、なくなるかもしんねぇ、からッ……聞いと、け」



止まらない涙で視界が悪い。



「俺、は…っ、この3年間………千花……を、愛……ッ…せて、良かっ、た……」



嫌だ、嫌だ。



最後みたいに言わないで。



止まらない涙に、ゆっくりと親指で拭ってくれる。



「…二度と…、言えなくなる、前に最期に……」



頬を置いてある手を握るが、もう【それ】を示していて。



この雨の中、私の体温じゃ暖めきれなくて…。



私の握っている手に力が込められる。



「お前を…………ッ…………ずっ、と……愛、し……て、る」



最期は少し笑顔でそう言って、瞼を閉じた。



「…叶斗っ……かなと、ねぇ………起きて、起きてよ!!」




それから、何度名前を呼んでも……もう二度と目を覚ますことはなかった。

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