第270話

玄関を開けると、ザァーと雨が地面に叩きつけられる音が鳴り響いている。



傘をささず、外に足を運ぶ。



頭から浴びる雨が、気持ちいい。



「千花様、敷地内から外へは出ないようお願い致します」



後ろで朱羽が何か言っている。



そんな声は私に届かない。



だって、雨だもん。



雨の中にいると、自分がどうでもよくなる。



私と一緒に泣いているみたいで、好き…なんだ。



「千花様」



もう一度朱羽は呼んだけど、私には聞こえなかった。



私は足が赴くまま、歩いていく。



厚着をしているわけではないし、この冷たい雨に打たれながら歩くのにも限界はある。



門を潜り、敷地の外へ出る。



雨の匂いと、身体に打ち付ける感覚、地面からの音…全てが私を満たしてくれた。



叶斗が起きる前に帰ろうと、視線を上げたら目の前に誰かが立っていることに気が付いた。



「やっと………見つけた…」



「……ぇ」

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