第210話

何で泣いてるの?



私は叶斗の頬に両手を添える。



「何で、泣いてるの?」



その次に言おうとした言葉を飲み込んだ。



『私の方が、泣きたいのに…』。



だけど、それを言ってもまだ伝わらない気がする。



「なぁ…お前は俺を捨てないよな?ずっと傍にいるよな?」



親指で叶斗の涙を拭う。



私はどうしたらいいか分からない。



「かなっ、」



「なぁ!…俺から離れるなよっ」



私の肩口に顔を埋めてきた。



それを優しく抱きしめる。



叶斗に他の女がいるのは確実なのに、なんでこんな状態になるのか…。



「なんで朱羽と出掛けんだよ…俺のモンなんだから、勝手にどっかいくなよ…ッ」



「………ごめんなさい」






私の中で、カチッ…と蓋がしまったかもしれない。

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