第203話

「私ね、海好きなんだ」



砂浜に座り、一人語りのように言葉を発した。



「叶斗と来て思った…。海と一緒に、波に呑まれて死にたいの」



未だに繋がれている朱羽の手に力が入ったのが分かった。



「だって、誰にも迷惑かけてないし、誰かが私を探す必要は無いでしょ?こんな広大な海を探してたらキリないもん」



ふふ、と笑って話す私に朱羽は無言で聞いてくれている。



「あとね、砂浜に打ち上げられたくないから、そのまま海底まで沈みたいな」



視界に入ってくる海に、心地いい波の音。



立ち上がろうとしたら、それを阻止された。



「…行くのか?」



「死にに行くわけじゃないから、手、離して」



不安な顔をしている朱羽は、叶斗と同じ。



なんでそんな顔をするのだろう。



私は大丈夫って顔をして、手を離してくれるのを待つ。



だけど中々離してはくれない。



だから私が痺れを切らして言った。



「朱羽も一緒に歩く?」



そう言ったら、立ち上がって手を引かれた。



驚いたものの、一緒ならいいんだって思った。



「一緒歩くから……離れるな」



「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る