第172話

「寒くないか?」



タオルで身体を拭かれながら聞いてきたけど、私は答えなかった。



「朱羽から連絡があって、すぐ向かいたかったが、お前…雨好きだろ?会社に向かってるならいいと思ってな……」



右肩に当てられているタオルはどんどん赤く染る。



「悪い…手当は朱羽に任せるからそのままでいいか?」



私の視線が肩に向いたのを見て、そう言ってきた。



「うん……。叶斗仕事戻っていいよ?」



「バカかよ、千花の方が優先だ」



抱きしめられる。



「山積みのやつは、何?私言ったよね?終わったら構って欲しいって。私は大丈夫だからね?」



私の表情を見て、叶斗は言葉を失っていた。



暫く沈黙が流れる。



それを破ったのは朱羽だった。



「失礼します、叶斗様」



「あ、あぁ、すぐ手当してやってくれ」



額にキスをして、机に戻って行った。



その際、ボソッと「戻れよ」と言われたような気がした。

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