第141話

* * *






食事が終わり、またベッドへ戻る。



「なぁ、千花…」



そう言って近づいてきた顔を手で阻止した。



「…ぁ、……叶、斗」



言い訳なんてない。



私の行動に叶斗は動揺する。



「……かな、と…あの」



「嫌なのか?」



怒ってるのか悲しんでるのか……それともどっちもなのか。



だけど、キスされそうになった時、頭をよぎったのは朱羽だった。



いや、叶斗が朱羽と重なった。



「お前…朱羽に何かされたか?」



『朱羽』の名前を聞いて、すぐ否定した。



「違う…その、……」



「言えよ。何された」



ここで朱羽にキスされそうになった、なんて言えば朱羽は殺される。



だけど、私はそれを望んでいない。



朱羽にも私の傍にいて欲しい。



だから、私は嘘をついた。



「…こわ、くて………」



「何が怖い」



「…ぁっ、」



声が出せなくなる。



私の反応に、叶斗はフッと笑った。



「キス…していいか?」



さっきの表情とはうって変わって、私を怖がらせないように頬に優しく手を置いて聞いてきた。



今キスされるのは叶斗。



大丈夫…。



「うん、して…欲しい」



そう言ったらすぐに口を塞がれた。



「んッ…ぁぅ、ふっ……はぁっ、」



私の存在を確かめるかのような、私は叶斗のものだと伝えられているような、そんなキスだった。



唇を離され、私は名残惜しかった。



「んだよ…もっとして欲しいのか?」



私は顔に出ていたみたいで、そう言われた。



前にいつも見ていた意地悪な顔をされた。



「うんっ、もっと、して…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る