第135話

「ぇ……何、言ってんの?」



『逃げる』?朱羽と??



どういう事?



「嫌なら別れればいい。俺なら泣かせるようなことはしない」



朱羽の一人称が『俺』なのに引っかかる。



朱羽の目を見ると、冗談なんて言ってない。本気だ。



手当が終わってるはずなのに、手は握られたまま。



ぎゅうぅぅ、と力が入ったのが伝わる。



「千花…俺じゃダメか?」



視線があちこち動き、動揺が隠せない。



やっと出せた言葉は、言葉じゃなかった。



「やっ、」



「千花」



ぐいっと朱羽の方へ引っ張られる。



私の身体は金縛りにあったみたいに指1本動かせない。



スローモーションのように、朱羽の顔が近づいてきた。



嫌…したく、ない。



そう思った時、運良いのか悪いのか朱羽のスマホが鳴った。



「はい……只今向かいます。失礼します」



いつもの話し方に戻ったため、相手が叶斗なのがわかる。



朱羽は私の事をそういう風に見てたってこと?



「叶斗様の元へお連れしますね」



私に対しても話し方が戻り、さっきの朱羽は何だったのかと疑問が残る。



気のせい?…なわけない。



確実にキスされそうになった。



「車で向かいますので、少しだけ目を瞑っていてくださいね」



後部座席に乗せられたが、目を瞑るなんて出来なかった。



ぐるぐるとさっきの事が頭を巡っていた。





* * *






「叶斗様、遅れて申し訳ありません」



連れてこられたのは廃墟。



「遅ぇ。テメェ何してたんだよ」



「何もしてません」



ドアは開けられた2人の会話は聞こえたが、私は歩けないため座ったままだった。



「そうかよ…。千花、歩けるか?」



首を横に振る。



「見張ってろ」



朱羽に指示を出し、私の元へ来てくれる。



「手ェ出せ」



差し出された手を掴むことは無かった。



手を出せば、自傷行為がバレる。



「千花」



この有無を言わさない声、嫌い。



中々手を差し出さない私に痺れを切らした。



「…悪かった」



膝をつき謝られる。



「これが終われば、傍にいれる。お前にしか出来ない事なんだ」



「…私、何するの?」



「殺しだ」



「私の手で?」



「あぁ」



叶斗の手に、自分の手を差し出した。



「………連れてって」

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