第126話

* * *






「千花様、お昼過ぎていますよ」



朱羽の声で起こされる。



「お食事お持ち致しますね」



ゆっくり身体を起こす。



寝ぼけ眼で辺りを見渡してもやはり叶斗はいない。



「千花様、大丈夫ですか?」



「大丈夫」



大丈夫と聞かれたら大丈夫と、必然的に言葉が出てくる。



頭で考えなくても出る。



「こちらに置いておきますね」



「…ありがとう。出てって」



「失礼します」



朱羽が出ていったのを音で感じ、食事に手を伸ばす。



スプーンに手を伸ばしたが上手く掴めずカランカラン…と落ちる。



落ちちゃった…。



朱羽呼ばないと。



「朱羽、」



呼んで来ないことに、さっき自分で『出てって』と言ったことを思い出す。



「朱羽、朱羽!」



今出せる声で朱羽を呼ぶ。



「どうかされましたか?」



「……スプーン、取って」



「かしこまりました」



ボーっと朱羽がスプーンを取る姿を眺める。



お盆に置いてから、顔を覗かれた。



「千花様、少し宜しいですか?」



「な、に」



朱羽の顔が近づいてきて、思わず目を閉じる。



朱羽の手がおでこに当てられ、冷たさに肩がビクッとなる。



「少し熱があります、横になってお休み下さい」



「…」



立ち上がり部屋を出ようとした朱羽の袖を掴み、引き止める。



「千花様、休んでいてください。薬とタオルお持ちします」



そう言われても離さなかった。



「どうかされましたか?」



「……離れないで」

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