第102話

日課になっていた自傷行為がすぐ直るとは思っていない。



俺の言葉を理解してはいるだろうが、無意識にしてしまう。



会議から戻ると、目を疑った。



「……ぁ」



「手を止めろ!」



すぐさま駆けつけ、止めさせる。



30分だ。30分会議があるから大人しくしとけと言ったものの、このザマだ。



左手首からは大量に血が流れてた。



「止血するから何もするなよ!」



救急箱を取りに千花の元を離れたのが悪かった。



戻ってきた時はまた行為をしていた。



「おい、千花!聞こえるか?」



動き続ける右手を制す。



「……なんで、止めるの?」



「千花」



「血を見たい…赤い血………」



俺の手を振りほどき、また再会する。



止まることを知らない右手に、俺は自分の腕を差し出す。



っ!?」



この痛みを感じないのか?



「私の、腕じゃ…ない」



「止めろ……お前本当に死ぬぞっ」



「……ぅん、死ぬよ?」



お願いだから、戻れ。



「…俺のこと、愛してないのか?」



この状況で言うことじゃないのはわかってるが、千花に俺の声が届いていないのは確かだ。



どう戻せばいいのかも分からない。



「血……見たい」



「…千花」



少しずつ弱まる力にもう一押しする。



「お前は誰を愛してる。お前の言葉にして言え」



俯いている顔は俺から見えない。



「言えないのか?」



「………だよ」



「あ゛ぁ゛?」



「叶、斗……だよ」



「俺がなんだ」



「…叶斗を、愛……し、てる」



「なら俺の言うこと聞けるな?」



「………ぅん」



コクっと頷き、今度は確実に止まった。



千花の顔を持ち上げ、目を合わせる。



「いいか、二度とこんな事はするな。今お前が切っているのは俺の腕だ。したくなったら俺に言え。わかったな?」



「……うん」



堕ちていることくらい、合わせている目を見れば分かる。



「千花、愛してる」



そう言って、俺はキスをした。



千花の中に俺を刻むために。



「んッ……っあ、んむッ…」



「1人で死ぬのは許さねぇからな」



「…ごめんなさい」






* * *

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