第99話

* * *






「千花、ただいま」



「…」



「千花?」



顔を覗き込まれ、叶斗が帰ってきたのがわかった。



「……おかえり、叶斗」



今日はベッドにずっと座ってた。



動く気力がなく、自傷行為もしなかった。



着替えへ向かう叶斗を追う。



いかないで……、傍にいてよ…。



どこにもいかないで…。



叶斗の手を掴む。



「どうした?」



やだよ、捨てないで…。



「何かあったか?」



「……」



「ん?」



「………何でも、ない」



そう言ったけど、握る手は離さなかった。



嫌だ、嫌なの…。



お願いだから捨てないで。



「…っく…ッ」



「大丈夫か?」



「うぅっ…っ」



イカナイデ、イカナイデ……。



嫌だよ。



「千っ」



「イカナイデ、ハナレナイデ……ソバニイテ」



わかんなくなっていた。



思っていたことを言ってしまった。



「仕事行って欲しくない…隣にいて欲しい………私だけ見て欲しい…どこにもいかないで!」



「…あぁ」



叶斗の声の低さで我に返る。



「ちがっ…ごめ、なさい」



「そのせいで、自傷行為してたのか?」



「違う違う……」



力なく、首を横に振り、否定する。



「お前から見て、そんなに俺は頼りないか?」



「か、な…と」



「俺は自傷行為なんてして欲しくねぇ。そうさせてる理由も言えない程頼りないのか?自分の身体に傷なんて付けて欲しくねぇんだよ」



捨てないで、捨てないで…。



謝るから、どうか私を捨てないで……。



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…っ」



「捨てねぇから思ってること全て言え」



突き放された感じがして、何も言えなくなった。



「……ッ、ぁ…」



怖い怖い…恐い、コワイ………。



「ごめんな…。俺がこんな風にさせてごめん」



抱きしめられても恐怖でしかなかった。

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