第96話

* * *






「千花、おいで?」



着替えが終わったらしく、名前を呼ばれる。



だけど、私は動かなかった。



いや、動けなかった。



着替えの5分も待てないとか…子供過ぎて……。



「千花」



ふいっと顔を背ける。



「こっち見ろ」



怒られる…。



我儘だって、自分勝手だって……。



「何も思ってねぇって。むしろ顔合わせねぇ方が怒るぞ?」



それを聞き、ゆっくり顔を叶斗へ向ける。



「…私の事………嫌いに、ならない?」



「なるわけねぇよ。ずっと傍にいるからな」



何度も言われてる言葉…なのに、やっぱり信じられない。



突然いなくなるかも、私は捨てられるかもしれない…その思いは拭えない。



私の不安がわかったのか、キスしてきた。



「んッ……っ、ぁ」



服に手が伸びてきた時、私はその手を止めた。



「…嫌、か?」



「ごめんっ…出来ない…ッ」



「あぁ、わかった」



断っても嫌な顔せず、抱きしめてくれる。



それに私も抱きしめ返す。



ごめん、ごめんね…。



バレたくないの……。

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