第95話
一向に殴らない男に私は少しずつ戻っていく。
「千花」
「…か、な……と?」
「その状態の時にこんなもん出してごめんな」
私が叶斗と認識できてるのを確かめて、頬に触れてきた。
「落ち着いたか?」
「……」
頬に置いてある手に触れる。
「叶斗…だよね?」
「あぁ、俺だ」
スリスリと頬を動かす。
「傍に、いて?」
「いるだろ?」
「………うん」
そうじゃない。
今いるとか、そう言うんじゃないの。
どこにもいかないで欲しい。
私の『傍』に…いて欲しいの。
「すぐ着替えてくるから待ってろ」
そう言って立ち上がった叶斗の裾を掴む。
「5分で戻るから、な?」
私の頭を撫でて行く背中に向かって私は口に出していた。
「いやっ!」
その声に叶斗が振り返り、また私に向かって歩いてきた。
「どうした?」
叶斗の声に、自分が何言ったか気付かされる。
「ごめっ…なさ、い」
「謝るな。何が嫌だった」
「……ッ」
泣き出した私を抱きしめる。
「一緒行くか」
軽々と持ち上げ、着替えへ向かう。
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