第94話
『なぁ千花…お前は俺の言う通りにしてればいいんだ』
『俺に従えば全て上手くいく』
「…ッ!?」
頭の中で聞こえる。
それを振り払うかのように、持ってるカッターで手首を切っていく。
段々と増えていくキズ。
それを隠すかのように、私は叶斗に身体を晒さなくなった。
今が冬でよかったと思う。
風呂も、行為も全て断っている。
まだ体調が万全じゃないと嘘をついて………。
せっかく足に刺青を入れたってのに。
血じゃなくて肌を変色させたくて、次は痣を作る。
グググ…と身体中至る所を抓ったり力の限り押したりする。
「ハハッ……」と失笑する。
薬はバレたけど、リストカットまでしてるなんて知ったら、私…どうなるんだろう。
時計に目をやり、急いで服を着て、道具を隠す。
「おかえり、叶斗」
「ただいま」
キスをする。
さっきまでの私を隠して、頑張って笑顔を作る。
「千花に似合うと思ってこんなもん買ってきたんだけど、どうだ?」
カバンから出したものはチョーカーだった。
それも黒。
だけど時期が悪かった。
「ひゅ……」と喉が鳴り、その場で自分を守る。
「…ごめっ、なさ、い……逃げないからっ…」
一瞬にして呑まれた。
「いやっ……やだ、よ…私部屋からっ……出てない、よ?」
ペタン…と動けずにいる私に近づく影。
叶斗だと認識できる頭ではない。
「千花、ごめん、俺が悪かった」
抱きしめられ頭を撫でられる。
私はそれを必死で引き離そうとした。
怖い…怖い……恐いよ…。
何もしてないの…私は、何も……してないんだよ。
だけど叶斗の力に敵うはずもなく、抵抗をやめて謝罪を口にする。
「ごめんなさい、ごめんなさい…ッ……ごめん、なさい」
「顔を上げろ、千花」
その言葉にゆっくりと顔を上げる。
顔を殴られる…そう思った。
抵抗すればする程酷くなるから、気が済むまで殴ればいい。
それで満足するなら、私はいくらでも殴られる。
「お前の目に映ってるのは誰だ」
右手を握られ、そう言われた。
誰って…誰?
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