第93話

* * *






「千花さん、終わりました」



「凄い…」



想像以上だ。



背中は出来上がりを鏡でしか見たことないから、実際に太ももに入った刺青を見て驚いた。



色は朱殷しゅあん



黒みがかった赤。



早く叶斗に見せたくて、待合室へ急ぐ。



「叶斗、見て!赤黒くて綺麗じゃない!?」



太ももを見せ、感想を待つ。



「……あぁ、綺麗だ」



太ももを撫でながら、なんて言うか…哀しい表情で言われた。



「叶、斗?」



「あ?」



「…本当は刺青入れるの嫌、だった?」



「否、俺のモンって印が増えるから寧ろ感謝してる。痛みあったか?」



「ううん、全くなかったよ」



その答えに何か考え込むような素振りを見せた。



おかしな答え方したかな?



「……そうか」



特に今回は痛みもなく、紫波さんが彫ってる姿を見てた。



「帰るぞ。純夜、金置いとくから領収書出して朱羽に渡しとけ」



「はいよ。千花さん、本日もありがとうございました」



「うん!またお願いするかもしれないから、その時はよろしくね!」



握られてる手に力が入ったのがわかった。



「またなんか入れんのかよ」



「んー、わかんない」



「まぁいいけど」






* * *






この時、叶斗は私の違和感に気付いていた。



様子見程度で、何も探ることはしてこなかったんだと思う。



まさか、そこまで酷くなるとは自分でも思ってもみなかった。

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