治療
第67話
「朱羽、薬」
「こちらにあります」
飲もうと手に取ろうとした時、少し躊躇った。
また吐いたらどうしよう…と不安になる。
「……飲めると思う?」
「無理なさらず」
まだ寝てる叶斗を撫でながら聞く。
「……あと、頭痛薬もちょうだい」
「頭痛薬、ですか?」
「うん……頭痛くてさ」
「かしこまりました」
朱羽が出て行き、叶斗と2人。
サラサラの黒髪に指を通して遊ぶ。
「…早く良くなってね」
コンコンとノックがして、朱羽が戻ってきたのだと思った。
「朱羽?入りなよ」
扉を開け、入ってきた人はここの社員だった……それも女…。
はぁ………マジかよ。
「社長は……」
「……………いるけど、何」
さっき醜態を晒した私とは違う。
今は叶斗がいる、大丈夫…怖くない、はず。
「本日までの資料がありまして……その………確認をと…」
皆には体調不良な事が伝わってないの?
「……机、置いて出てってくんない」
「でも…」
「何……叶斗と2人きりになりたい訳?」
「……」
「黙んの止めてくんない?それ肯定してるって見なされるよ
……結局そういう事でしょ」
叶斗を好きになる理由はわかる。
まぁ、裏の仕事を知らないなら尚更惚れるだろう。
顔も良く、仕事はできる、社長もやってて、金もある。
恋人になれば何不自由がない。
だけど、こいつが人殺してるところを見て、引かない自信あんのか?
私は実際に親を殺してもらった。
そんな事をしても……私を監禁しても、傷付けられても………私は叶斗を愛してる。
誰よりも…【愛してる】。
「……千花、誰と話してる」
モゾモゾと私を抱きしめたまま、声をかけてきた。
「あ、あぁ、ごめん……なんかここの社員が資料届けにきてさ」
「…お前、声戻ったんだな」
「うん、戻ったみたい」
「良かった…」
私と叶斗の出す雰囲気に自分は入れないとわかったのか、資料を置いて出てった。
「んだよ、あの女」
「さぁ?今日までの資料だってさ…けど体調悪いならやらなくてもいいんじゃない?」
「資料見りゃいつまでかっての分かるから見てくる」
まだ体調は回復していなく、ふらついた足で机に向かっていった。
「あ゛?これ期限まだ先じゃねぇか、あのクソ女」
「なら今日はゆっくり休も?」
おいで、と両手を広げて叶斗を待つ。
ぽす、と私に抱きついてくる。
優しく頭を撫でてると、寝息が聞こえた。
「……私だけが叶斗を愛してる。だからずっと隣にいてね?約束だよ」
頭にキスを落とし、私もまた眠りについた。
* * *
声が戻り一安心。
伝えたいこともやっと伝えられる。
叶斗を愛するのは私1人でいい。
私が愛されるのも叶斗だけでいい。
誰にも邪魔されたくない。
誰も私たちの世界に入ってこないで…。
誰も私たちの世界を壊さないで…。
二度と作ることが出来ないこの世界を、彷徨い続けている私を…どうか迎えに来て欲しい。
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