第65話

「…ぁっ、ぁ……ッ」



何も考えられない。



叶斗が……『倒れた』…?



朱羽が何言ってるかわからなかったが、その言葉で私の身体は動いていた。



そんなはずはない。



だって、早く帰るって、行く時に言ってくれたじゃん。



何嘘つくの?



なんで仕事なんて行ったの?



コンクリートの石や、落ちてるゴミで足裏に痛みを伴うがそんな事は関係ない。



叶斗の元に早く行かないと…。



会社に着き、社員用から入る。



ブザーが鳴るのもお構いなしにフロントに向かう。



「…っ…ぁ」



叶斗を、叶斗を…。



エレベーターに向かえばいいものの、そんな頭はなかった。



そもそも、セキュリティ面で私は会社には入れない。



言葉を発しない私にフロント女から罵声を浴びる。



「あんた何?社員ならブザー鳴らないんだけど、何か用?」



「…っ」



「ブスがここに来ないでくれない?そんなガリガリの身体にボロボロの服で、おまけに靴も履いてないとか…。この会社から出てって」



声を出したい…。



叶斗のところに行きたいって…。



「邪魔なんだから出てってよ!!」



声を荒げられ、その場に蹲る。



怒らないで怒らないで…。



私は何もしてないよ……。



染まる…ソマル……。



叶斗、助けて…。



頭を抱える私を会社から出そうと、他の人に引っ張られている時、名前を呼ばれた。



「千花!」



その瞬間、静まり返る。



カツ、カツ…と叶斗の足音だけが響く。



「何しに来た…部屋で待ってろと言ったろ」



私を抱きしめたせいで、周りがざわめく。



「てめぇ、何千花に暴言吐いてんだよ。クビな、明日から来るな」



私に女を映さないよう、頭を胸に抑えられ、叶斗が言い放った。



「しゃ、社長!?そんな、クビだなんて…。この女、ここの人じゃないんですよ!?それを追い払うのはっ…」



「だから何だよ。俺の女だ。本当は誰にも見せたくなかった…こーんな可愛い顔してんだからよぉ…」



そう言い、叶斗は私を映す。



私の目に映る叶斗はいつもの叶斗で…。



でも、朱羽から倒れたって聞いたのに。



朱羽が私に嘘ついたの?



「靴履かずに来たのか?足痛かったろ」



サラッと髪に指を通す。



「部屋に行こうぜ」



ひょいっと私を持ち上げ、社長室に向かう。



バタン、と扉が閉まるとベッドに降ろされた。



「悪ぃ、千花…朱羽から聞いてるだろ?一緒寝てくんねぇか?」



コクコク頷く。



「ごめんな…ありがとう」



そう言い、叶斗はすぐ眠りについた。

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