第59話
失声症となり、数日。
食べ物が喉を通らなくなった。
発症した日から何かしら口に含めば嘔吐の繰り返し。
辛うじて飲みもんは大丈夫。
朱羽から聞かされているはずだが、叶斗はいつも通り仕事をしている。
私にとっちゃぁ、都合がいい。
付きっきりで傍にいられるより、仕事してもらったほうが、私としては嬉しい。
叶斗と一緒にいても、今は心を開きたくない。
「千花様、お身体は大丈夫でしょうか?」
窓辺に座り、時間が過ぎるのを待つ。
「本日の薬、置いておきますね」
初日に朱羽を引き止めたが、寝たらそんなの関係なくなった。
私の心は黒く支配されている。
誰も踏み込んで欲しくない。
誰にも理解されたくない。
誰も理解してはくれないから…。
「千花様、本日はハーブティーでございます」
丁度いい温度の紅茶は美味しい。
飲み終えたところで、扉が開く。
私の元に歩いてくる。
「ただいま、千花」
触れることはせず、言葉だけ。
部屋着に着替え、また私の元へ来る。
差し伸べられる手に、ピクっと身体が反応する。
それを見て、悲しそうな顔をする。
「ごめん、嫌…だったよな」
そんな顔で、そんな声色で言われても何も思わない。
「お前に……」
そう言いかけて、叶斗は口を閉じた。
何を言いかけたのか…。
「いや、何でもねぇ。早く完治しろよ」
踵を返し、部屋を出ていった。
私が心配なんだと目で訴えかけてきてはのはわかる。
だけど、それに答えるような状態じゃない。
* * *
私の症状は一気に酷くなる…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます