第58話

千花side




コンコンとノックが聞こえ、朱羽が来る。



「千花様、こちら間食を用意致しました」



窓辺に座ったまま動かないため、近くにテーブルを運び、食べ物を置く。



「千花様の好きなチーズケーキと、カモミールティーでございます。何が用がありましたら…」



私はまだ話してる朱羽に近付く。



気配を感じたのか、私の名を呼ぶ。



「千花、様?」



頬を優しく撫でる。



こんな酷い傷…私がいなければ付かなかったのに…。



私が朱羽に外に行こうなんて言わなければ起こらなかったのに…。



後悔ばかり押寄せる。



ポタ、ポタ…と朱羽の顔を濡らしてく。



「…ッ」



ごめんね、ごめんね…。



私の護衛なんてさせてるから、朱羽が傷つくんだ。



言葉にしたいのに、言えないもどかしさ。



「私の傷は千花様のせいではありませんよ?私は生きています、大丈夫ですよ」



沢山朱羽に酷いことをしてるのに、それでも大丈夫、私のせいじゃないって、なんで優しいの?



私のこといらないって、お前のせいでこっちは傷ついたんだって、はっきり言って欲しい。



お前さえいなくなれば、誰も傷つかなかったって……。



泣きじゃくる私を宥める。



「千花様と叶斗様をお守りするのが私の役目です。何も千花様が自責の念を抱えることはありません」



「…っ、ッ」



「千花様のおかげで生きているのです。私の様なものを助けてくださり、私が感謝しなくてはいけないのです。責任を感じないでください」



どうして…。



どうしてよ………。



「私の方がお守りする立場にありながら、千花様を守れず申し訳ありません」



頭を下げられた。



お願いだから、私を責めてよ。



貶してよ。



立ち直れないくらい、ボロボロにして欲しい…。



「叶斗様も大変心配していましたので、怪我と声を完治させましょうね」



叶斗の名前が出た途端、私の涙は引っ込んだ。



それに朱羽が気付かないはずもなく、戸惑ってた。



「2時間程で帰宅されますので、把握よろしくお願い致します…」



コクっと頷く。



「扉脇にいますので、何が用がありましたら、遠慮なくお願いします」



大好きなチーズケーキを1口。



喉に通した瞬間、吐き気がして、トイレに駆け込む。



「…ッ…ぁっ……」



たった1口なのに…。



大好きなチーズケーキなのに…。



口から食べたチーズケーキ以外のものも吐き出される。



「千花様!大丈夫ですか?」



長く続く嘔吐に頭がクラクラする。



「薬をお持ち致します。少しお待ちください」



直ぐに持ってきた薬を渡されるが、飲みたくなかった。



どうせ飲んでも戻すだけ。



それを見てか、朱羽は水を渡してきた。



「では、水だけでも…」



それも受け取らなかった。



少し治まっては戻し、その繰り返し。



「っ…」



暫くして治まる。



「千花様…」



息を整え、朱羽に縋る。



「…ベッドへ運びますね」



ポスン、とベッドに下ろされ去っていこうとする朱羽を掴む。



「…叶斗様へ連絡致しますので、暫しお待ちを」



私はフルフルと首を横に振る。



「ですが、千花様…」



嫌だと、強く袖を引っ張る。



「……わかりました。傍にいますので安心してください」



その言葉を聞いて、私は静かに目を閉じた。

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