崩壊

堕落

第56話

目が覚めた時、私はベッドにいた。



叶斗が助けてくれたの…?



全身手当されている事を不思議に思った。



確か頭には受けたけど、その他はヤられただけのはずだったのだ。



「千花、まだ動くな」



起き上がろうと思い身体を動かしたら叶斗に言われた。



だけど私は無視して、朱羽の元へ足を運ぶ。



「おい、千花」



私より酷い怪我のはずなのに、扉の側に立っていた。



「千花様…傷は完治していません。ベッドで横になってください」



私を遠ざける。



なんで朱羽の傷の心配もしちゃいけないの?



頬に触れようと手を伸ばした時、叶斗によって遮られる。



「てめぇ、自分の怪我の状態わかってんのかよ」



口を開いて喋ろうとした時、何が起こったか分からなかった。



「……」



パクパクと口は動いてはいるが…声が出ない。



声を出そうとしても、出てこない。



「叶斗、様……」



朱羽は視線を叶斗へ向ける。



叶斗が怖い。



手首を握る力が段々強くなる。



痛みに顔を歪める。



「……もしかしたら、失声症かもしれません」



「声、出ねぇのかよ…」



あぁ、私必要ないのかもしれない。



叶斗の声の低さで私は私を責める。



俯き、叶斗の手を振り払う。



2人とも声をかけることはなく、不穏な空気が流れる。



窓辺に座り、外を眺める。



私、やっぱり2人と一緒にいちゃダメなのかもしれない。



「……千花」



名前を呼ばれても私は反応しない。



だって、叶斗も私のこと嫌いでしょ?邪魔でしょ?いらないでしょ??



もう私を呼ばないで……。



近付き、触れようとした手を振り払う。



「千花…………」



見向きもしない私の名を呼ぶ。



聞きたくない…呼ばれたくない……。



今の私の心は、叶斗の声、仕草、態度では動かなくなった。



解けない氷みたいに、冷えきっていた。



あんな風に私を見るなら、心を開いて叶斗に縋るんじゃなかった…。



どうせ私は汚い人間。



叶斗と住んでる世界が違ったんだから、叶斗に似合う女になんてなれるはずなかったんだ。



努力も、強い意志もなく、叶斗の隣にいれるはずがない。



他の女は叶斗に似合うように、目に映るように、それぞれに努力している。



でなければ、あんなに綺麗な顔、体は手に入らない。



金をかけてでも、何としても叶斗の女になりたいんだ。



会社に着いて行く度、汚い目を向けられる私は釣り合っていない。



だけど、私しか見ていない叶斗に甘えてた。



私にたくさんの愛を与えてくれていた。



私だけだと思っていた。



しかし、今はどうだろう。



私を見てきた奴らと遜色ない。



そんな叶斗を私は求めてない。



手を振り払い、叶斗を拒絶する。



今回の事も大元は壮だ。



私さえ死ねば、誰も傷つかなかった…。



「千花、ベッドで寝ろよ。俺は仕事行ってくる」



うんともすんとも言わない私に言葉をかける。



「早めに帰ってくるからな」



いつも頭を撫でてくれるはずの叶斗は、私の状態から察して、何もせずに出ていった。



「千花様、後で食事をお持ち致します」



朱羽もそう言って出ていった。



飯…いらねぇ。



声が出ないのに加え、叶斗から向けられる視線が気持ち悪く、心が死んでいった。

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