第50話

千花side




目の前にいるのが叶斗なんだとわかった瞬間、私は抱きついた。



相変わらず呑まれるから判断できなくなる。



「独りに……しないでよ、」



「ごめんな…」



自分で叶斗を探しに窓から飛び降りたのに、叶斗のせいにする。



そんな自分に嫌気がさす。



だけど、叶斗は私を責めない。



いつ捨てられてもおかしくない私の自分勝手さに、どうして何も言わないのか…。



口出しすると言えば、自分以外の奴に興味を示した時だ。



興味と言うより、他のやつの話はタブーな気がする。



「千花、歩けるか?」



「……」



無言でぎゅう、と抱きしめる腕を強めた。



「もう窓から飛び降りるなよ?」



「…飛び降りて……ない」



「嘘つくな。足挫いてるだろ?」



「……挫いてない」



「帰ったら診るからな。運ぶから掴まっとけ」



私を軽々持ち上げる。



叶斗といると心が満たされる。



腕の中で、私は気付いたら眠っていた。



叶斗の体温が気持ちいい。



ずっとくっ付いていたい。



いつの間にか私の一部になっていた叶斗。



その一部が徐々に私を支配する。



全てが叶斗になった時、私は生きていけるのか?



叶斗から与えられるもの、まさしく「狂愛あい」は簡単に溶け込む。



どこまで呑まれようが、どこまで堕ちようが…叶斗の言葉、叶斗の行動で保つことが出来る。






* * *






与えられることがなくなったあの日、私は絶望した。



もう二度と、心を満たしてくれる…否、私自信を形成する「狂愛」はこの世に存在しない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る