第46話
「タバコ吸ってよ」
「何でだよ」
「あの時、吸ってる姿、かっこよかったから…また見たい」
あの日見た叶斗の姿は頭から離れない。
「帰ったらな」
「うん!」
静かな夜道を2人で歩く。
暫く歩いてると叶斗の手が肩に置かれた。
「千花、お前少し前歩けるか?」
「どうして?」
「ちょっとな…」
「?」
疑問を浮かべつつ、前に足を踏み出した時、叶斗の腕の中に収まった。
と、同時にバン!と銃声の音がして、「うっ!?」と呻き声が聞こえた。
叶斗の手から袋が落ちる。
「か、な…と?」
恐る恐る顔を上げる。
「千花、俺から…離れるなよっ…」
「……ぇ」
何が起こったの…?
ポタ…ポタ…と顔に水が垂れる。
だけど、それが血だということは匂いでわかった。
「っ!?叶っ…ん!」
名前を呼ぼうとしたら、手で塞がれた。
「静かにしろっ……俺は大丈夫だ…肩に当たっただけだからな…」
静かにして叶斗からの言葉を待ってると、その後は何も起こらなかった。
「1発だけかよ……」
「……ぁぁ、ぁ…」
「千花、早く帰るぞ…」
叶斗が…撃たれた。
血が……出て、る。
「叶……斗…」
震える声で呼ぶ。
「あ?」
「なん、で………。…死なない、よね?」
「こんくらいじゃ死なねぇ…いいから戻るぞ、外にいるとまた狙われるかもしれねぇからな」
何でそんな冷静なの?
私がおかしいの?
「叶斗…叶斗、叶斗」
「おい、千花」
私から叶斗を奪わないでよ…。
せっかく…せっかくずっと一緒にいたいと思える人に出逢えたの。
身も心も叶斗にあげるって決めたの…。
それなのに…それなのに………。
「聞こえるか、千花」
叶斗の声は聞こえない。
早く治療しないと…。
だけど、私の顔に、手に着いた血が…私を動けなくしてる。
「ぁっ……ぁぁ…ぃや、」
ガタガタと私の心が崩れる。
今まで保っていた、呑まれても、黒く染っても…私の心はまだ大丈夫だった。
叶斗がいるから、叶斗が愛してくれてるから、壊れそうな心も保っていられた。
それがいとも簡単に、たった1発の銃弾で壊れる。
当たりどころが悪かったら死ぬかもしれない…。
そんな考えがよぎる。
「千花……」
動けない私の後ろで、誰かが走ってくる音が聞こえた。
私は咄嗟に叶斗を抱きしめ守る。
「来ないで、来ないで!叶斗に近づくな!!」
「千花様、私です!」
「……しゅ、う」
「叶斗様、大変遅くなりました。千花様を運びます」
「あぁ、悪いな」
私を叶斗から引き離し、抱き抱えられ連れて行かれる。
「朱羽!叶斗は、叶斗はどうするの!?」
「私は叶斗様から千花様を守れと命令されています」
「そんな事聞いてない!!叶斗が…叶斗が、死んじゃう……」
「あの怪我でしたら、急所は外れているはずです。後で私が手当を致しますので心配なさらず」
「違うの、違うの!今すぐ手当してよ!私より叶斗を先に手当しろっつの!!!」
拳を朱羽にぶつける。
「千花様、落ち着いてください」
「落ち着けるわけねぇよ!叶斗が………叶斗、が…………」
「大丈夫です、千花様。叶斗様は死にません」
そんな事言っても分からないじゃん。
本当に死んだらもう二度と会えないんだよ?
叶斗だけが私に愛をくれた、唯一の人なのに…。
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