タバコ

第42話

「千花ー、飯行くぞ」



「はーい」



今日は食べ放題。



って言っても肉なんだけど。



「朱羽、お前も来い」



「ありがとうございます」



「最近後付けられてる気がしてっから気をつけろ。千花だけでも守れよ」



「かしこまりました」



この時、私に2人の会話は聞こえなかった。




「叶斗、焼いてー」



「自分で焼けよ」



「私食べる方に集中したい!」



「そうかよ…ほら、肉焼けたぞ」



何だかんだ叶斗は私の我儘を聞いてくれる。



取り皿に焼けた肉が置かれる。



「ん〜、美味しい!はい、叶斗、あーん」



「あ」



開いた口に肉を運ぶ。



「どう?美味しい?」



「あぁ」



「へへっ」



「俺じゃなくて千花が食えよ」



「一緒にいるんだから、叶斗も食べなきゃ!」



肉を頬張る私を撫でながら、叶斗はテキパキと焼いてくれる。



「朱羽、食べてる?遠慮しないで?」



「私にお気遣いなく、召し上がってください」



「うん、けど…」



「ほっとけよ。それより肉」



また、「あ」と口を開けて肉を運ぶ。



何度か叶斗に肉を運んでると、なぜか視線を感じた。



「……ねぇ、叶斗」



「ん?」



「いや…何でもない」



気の所為?



もしかして、壮…とか?



はは、そんな訳ないよね。



叶斗といるんだから、近付いてこないよね?



でも、前会った時は朱羽といたから、今度はまた別の男とか言われるのかな?



それとも前みたいに声かけて、連れ戻すとか?



考え出すとキリがない。



私の変化にいち早く気付いた朱羽に声をかけられる。



「千花様?」



「っ…何?朱羽」



「いえ…何でも、ありません」



少し俯き、言ってはいけないという顔をした。



それに叶斗が苛立ちを見せた。



「千花」



名前を呼ばれ、振り向くと突然キスされた。



「んっ!?」



それも強引に舌も入れてきた。



「…っ、やぁっ……かな、とっ」



「はっ、肉の味だな」



唇を離し、当たり前のことを言いやがった。



「何すんだよ!肉食ってんだから肉の味すんの当たり前じゃん!」



「それもそうか。いつもは甘いからな」



ぶーぶー文句を言う私を他所に、何事も無かったかのように肉を焼いてる。



文句が言い終わった後、叶斗の目を見ると怒ってるような気がした。



私が怒らせたと思い、恐る恐る名前を呼ぶ。



「叶、斗?」



声は届いているはずなのに、反応がなかった。



口を開いたのは朱羽に対してだった。



「なぁ、朱羽。お前気持ち悪ぃんだよ」



朱羽の事を、叶斗が気持ち悪いという発言に驚いた。



「叶斗、何言ってるの?」



「千花は俺の。分かってんだろ?」



私の肩に置かれてる手に力が入ってる。



「その目を千花に向けるな」



「…申し訳、ありません」



「謝罪が聞きてぇわけじゃねぇよ。向けんなっつってんの、分かった?」



「はい……」



叶斗が何言ってるかわかんない。



朱羽はいつもと変わらない気がするし、何も叶斗が怒るような事もしてない。



やっぱり私が怒らせた?



「…ごめんなさいっ……私、また」



呑まれる私に声色を変える。



「ごめん、千花にじゃねぇからな?」



「…ぁっ、なら…怒ら…な、い?私のこと……殴らない?」



「怒んねぇし、殴らねぇよ」



「…ほんと?」



「ほんとだ」



「…うん」






* * *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る