第36話

「叶斗、仕事は?」



「休み。千花を1人にさせられねぇからな」



「私大人しく待ってるから仕事行ってきていいよ?」



「俺の話聞いてたのかよ…」



「んー?部屋から出ないから大丈夫だよ」



頭では…口では叶斗と言いながらも身体は拒絶反応を見せる。



私に触れようと伸びてくる手だけで身体は強ばる。



「叶斗、?」



「何でもねぇ」






* * *






叶斗が部屋を出て数分、戻ってきた叶斗に駆け寄る。



「叶斗!あのねあのね…」



「千花」



「ん?」



「お前…今誰を見てる」



「叶斗……じゃないの?」



どんどん視界が黒くなる。



ドクン、ドクンと心臓がうるさい。



私…誰と、いるの?



「そ、う……ごめんなさい、ごめんなさい」



また怒らせた…。



もうこれ以上『私』を殺さないで…。



「…何でもするから…許して欲しい、です」



いい子で…部屋に居ないと……。



俯いて許しを乞うてたら、顔を上げられ頬を思いっきり叩かれた。



パシンッ!と乾いた音。



「叶斗様!そんな事したら千花様が…」



左頬が痛い…。



「い……た、い」



「今…お前の目の前にいるのは誰だ」



「………」



「言え」



今の私には答えられなかった。



「……ぁぁ…ぁ…」



ダメだ……呑まれる。



「……シテ」



「あ゛?」



「モウ、コロシテ」



叶斗だろうが壮だろうが、どうでも良くなった。



「ワタシノコトキライデショ?ナンデコノヘヤニトジコメトクノ?ヒツヨウナイナラコロシテヨ」



「千花」



「ネェ、ハヤク」



生きてたくなかった。



早くこの地獄から抜け出したい。



私を必要としてくれる人はいない。



『お前は生きてちゃいけねぇ人間なんだよ…』



『あんたなんか生まれて来なければよかったのに』



いつだったか、親に言われた言葉が聞こえる。



「ハヤクシテヨ!!!」



懇願する私の耳元で銃声が聞こえた。



「…コロシテクレル?」



「誰が殺すか」



「ナンデ……」



「千花のこと、愛してるからな」



愛してる……。



何それ…気持ち悪い。



「覚えてるか?お前の命は俺が貰ったんだ。死ぬなんて許さねぇかんな」



「……ワカッタ」






* * *






いつになったら抜け出せるのか…。



終わらない悪夢はまだまだ続く。

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