第33話

「叶斗、朱羽と出掛けてもいい?」



「あぁ」



「ありがとう!」



叶斗の不安はなくなってはいないが、元の叶斗に戻ったみたいで、朱羽と出掛けることに何も言わなくなった。



「何かあればすぐ連絡しろ」



「うん!」






* * *






「朱羽、叶斗ってどんなもの貰ったら嬉しいかな?」



「千花様からでしたらどのような物でも嬉しいと思いますよ」



「そうなんだけど、叶斗物欲なさそうだから新しいドレスとか着たら喜ぶかなー」



朱羽の袖を引っ張り、良さそうなものがないか周りを探す。



「千花様、あちらのお店はどうでしょう?千花様にお似合いの服があるかもしれません」



「うん!行こ!」






* * *






「いらっしゃいませ」



「千花様に似合う黒の服をお願いします」



「かしこまりました」



気に入った黒の服を2着買い、店を出る。



「ありがとうございました」



荷物は朱羽に持ってもらい、店の外に出た途端、背中を押され、膝を着く。



「千花様、お怪我はありませんか?」



「う、うん…誰が押した…の、?」



後ろを振り向くと、見覚えのある顔があった。



「やっぱり千花じゃん!覚えてる?俺の事。さっき千花っぽい人がこの店入って行くとこ見えてさー、待ってて良かったわ」



ベラベラ自分の話ばかりするこの男、そうだ。



「なぁ、良かったら家来いよ。また前みたいに可愛がってやるからさ」



私を掴もうと伸びてきた手は朱羽により制される。



「気安く千花様に触れないように」



「んだよコイツ…もしかしてお前の新しい男?俺と別れてすぐ付き合ったのかよ」



あの手だ…あの手が……。



「千花様から離れてください」



「元彼が近づいちゃいけねぇのかよ」



立てない…。



逃げたい…。



叶斗………。



瑞世壮みずせ そうが今更千花様に何用ですか?」



「あぁ?何でもいいだろ。大体こいつは…」



「朱羽!!私の傍にいて!」



大声を出した私に2人の動きが止まる。



「チッ…お前ビッチだな。じゃあな、クソ女」



私に暴言を吐いて去っていく。



「……朱羽、家帰りたい。叶斗に…会いたい」



「はい。直ちに車を手配し、叶斗様へ連絡致します。もう暫くお待ちください」






* * *






思い出したくもない、あんな日々。



別れてからも変わらないあの暴言。



『ニゲルナヨ』。

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