第32話

家に着いても、叶斗の様子は変わらなかった。



その場に私がいてはいけないような…そんな気分になり、ドアを開け朱羽の元へ。



「朱羽」



「はい」



「私記憶がね…」



「朱羽と話すな」



後ろから手で口を塞がれ、部屋へ連れ戻される。



「…叶斗」



「……なよ」



「叶斗?」



また壊れてる…?



「俺を…捨てんなよ」



「ぇ…なんで私が叶斗のことを?」



聞いてもなにも答えてくれなかった。



暫く無言のまま、後ろから抱きしめられている状態が続いた時、私は驚いた。



「…泣いてるの?」



答えてはくれず、私は顔を見ようとしたら、顔は逸らされた。



「大丈夫だよ…私が叶斗を捨てるなんて、そんな事する訳ないじゃん」



正面から抱き直し、優しく頭を撫でる。



朱羽といるのがそうさせてるのか…。



それとも私の記憶か…。



どちらも関係してると思うけど…私が愛したい、愛されたいと思うのは叶斗だけ。



それ以外の奴らからの感情なんて気持ち悪い。






* * *






私の腰に抱きついたまま、眠ってしまった。



優しく髪を撫で、顔を見る。



目の周りが赤い…。



私は叶斗を起こさないように、ゆっくり顔を退けた。



ベッドに移動しててよかった。



寝てる叶斗に毛布をかけ、脱衣所へ。



「千花様、叶斗様の傍にいなくて大丈夫ですか?」



「うん、今疲れて寝てるから。後でタオル置いといて」



「かしこまりました」



「あ、あと夜ご飯用意して」



「かしこまりました」



湯船に浸かりたかったけど、時間がかかるためシャワーで済ませる。



体を洗っていると、いきなりドアが開かれた。



「朱羽!?止めてよ!」



朱羽だと思い振り返ると、いたのは叶斗だった。



「なんで勝手にいなくなんだよ…」



「ちょ、服濡れるよ?」



「俺から…離れるな…」



「離れてないよ?」



「離れた…シャワー行くなら起こせ」



「ごめんね…。お風呂一緒に入る?」



「…入る」





* * *






「……こんな俺でごめん」



「どうして謝るの?」



「…こんなやつだと思わなかったろ」



どんな人でもあの日私を拾ってくれた叶斗には変わりない。



「こんな俺でも…お前は愛せんのかよ、愛してくれんのかよ……」



私は叶斗に身体を向け、目を見た。



「愛せる、愛してくれるとかじゃないの。私には叶斗しかいない、叶斗しか愛せないの。他の人からなんて真っ平御免なのよ。私を拾ってくれて愛をくれた叶斗だから私はずっと傍にいたいと思えたの」



「……あぁ」



「ちゃんと目を見なさい」



逸らされた目を戻す。



「っ!?」



「不安なら口にして言って?馬鹿な私はわからない。叶斗は叶斗のままでいいの」



「千っ」



「愛してる、叶斗」






* * *






記憶が戻った私に、叶斗は不安になる。



戻った記憶の中にあるトラウマは消えてはいないが、今のところ影響がなくなってた。

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