第30話

「千花、今日はこれな」



着させられる服は全て黒のドレス。



私、毎日こんなの着てたんだね。



口答えなんてしたら、何されるか分からない。



ネックレス、ブレスレット、アンクレットまで着けられた。



全て黒。



大きくないから主張はしないが、叶斗のものであると周りに言っているようなもの。



記憶が消えた私に初めは怒っていたが、今はそんなことはない。



「千花…どこ行く」



「トイレだよ、すぐ戻ってくるね」



「…わかった」



むしろ、朱羽から聞いた話より酷い。



私が自分の目の届かないところに行くのが嫌みたい。



叶斗から離れようとしてなくても、離れるような行動をすれば、どこに行くのか聞かれる。



「叶斗、お待たせ」



「……あぁ」



私を抱きしめて離さない。



「叶斗?仕事行かないの?」



「…気が変わった。休む」



「そっか…」



不安なのはすごく伝わる。



こうやって何度か仕事を休む時がある。



それと問題はもう1つ。



【海】だ。



私は海に行きたいと言った。



だけど、その言葉は否定された。



いくら私の行きたい場所だと言っても、海へは連れて行けない…。



記憶が戻るかもしれないと言っても、無理だ…の一点張り。



理由もわからない。



叶斗はそんなに海が嫌いなのだろうか?



「千花…」



「…」



「千花」



「ごめん…どうしたの?」



「いや…反応無かったから…」



私は今日も聞く。



「……叶斗…海、行こうよ」



「何故だ」



「行きたいから…」



「無理だ」



「…どうして頑なに海に連れてってくれないの?理由だって教えてくれないじゃん」



「……」



「朱羽と行く。それならいいでしょ?」



「行くな!朱羽とは……行くな」



記憶のない私でも元は変わらず、黒く呑まれる。



さっきよりも抱きしめる腕に力が入り、体が痛い。



「なら海へ連れてって」



「……わかった」



渋々許可を出してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る