第24話

千花 side




最終日。



私はまた海に行きたいと口にした。



その言葉に叶斗は驚いていた。



そして何か考えるように言葉を紡ぎだしてきた。



「……また今度にしねぇ?」



「え…」



「海もいいけどよ、美味い店でも行こうぜ」



私が言ったことに対して実行してくれなかった。



「どうして?連れてってくれないの?」



私の問いにすごく動揺してた。



「……1人で先に行くなよ。それなら連れてってやる」



「うん」






* * *






私はすぐ車を降りた。



初日と同じく足が動いた。



「千花」



呼ばれて振り向き、少し考える。



「あ、そうだった。はい、手」



言われたことを思い出し、手を差し出した。



『1人で行くな』って言われたんだった。



「叶斗?どうしたの?」



「いや、」



「一緒に行こ?」



「…そうだな」



暗い顔のまま、手を握ってきた。



「叶斗、海嫌だった?やっぱり美味しい店の方が良かった?」



「別に…千花の行きてぇ所なら何処だって連れてく」



「なら…なんで、そんな怯えてるの?」



「…は?」



「私、叶斗をまた不安にさせた?もっと海に近づきたいのに握ってる力が強すぎて近づけない…。私が何かしたなら……」



そこで私の頭に声が聞こえた。



『お前が逃げるからだろ?』



誰…?



『俺から逃げられねぇのに…ほんとバカだよな、お前』



「…千花?」



その場に崩れ落ちた。



「…ぃや…やめて……」



誰、なの?



頭が真っ白になる。



「千花、俺がわかるか?」



視線を合わせ、口にした名前。



「……叶、斗」



「どうした?大丈夫か?」



まだ叶斗と認識ができる。



「声が……声が、聞こえたの…。逃げるからだって…」



「声?」



『また痛めつけられたいか?』



「ひっ…!?」



身体が震え出した。



「…はっ、はっ……殺、さないで……痛く…しないで……もう、もう逃げないからっ…!」



叶斗のはずなのに、映るのはただの黒い影。



叶斗と認識出来なくなった。



頬に触れようとした手は、今の私には恐怖でしかない。



「嫌っ!」



手を振り払い、自分の頭を守る。



「千花!!」



名前を呼ばれるだけで身体が強ばる。



ビクビクしながら目を合わせる。



「俺は殺さない、痛めつけることもしない。ゆっくり呼吸しろ」



「だ…れ?」



「…おい、千花、」



「嫌だ…私、私…」



『だから言ったろ?

俺から離れるとお前が苦しいだけだぞ?』



「殺さ……ない、で……」



私の意識は途切れた。





* * *






もう時間の問題だった。



遅かれ早かれ、そいつに出会い、精神的に狂っていく。



そいつを消さない限り、永遠に私を支配する。

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